どっかこっか 公演情報 URAZARU「どっかこっか」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    笑って泣いて、感情の振幅に懐かれて幸福なひとときを過ごしたい人にお薦めの公演。
    チラシから分かるが、北海道帯広市の愛国町にある愛国駅が舞台。そこに集う地元の人々と東京から来た 鉄ちゃんと謎の女性が巻き起こす青春群像劇。もちろん広尾線は既に廃線になっているが、一時は同線に幸福駅もあり、「愛の国から幸福へ」というキャッチフレーズで話題になったこともある。鉄道は止まったが、時間は止まらない、そんな想いがじっくりと描かれた感動作。
    (上演時間2時間 途中休憩10分)

    ネタバレBOX

    舞台美術は下手に当時の愛国駅 駅舎を再現したと思わせる外観、中央にホームと駅名板、上手に駅近くの土産物 中村商店(「宿泊できます」の案内が笑える)、周りに何もない田舎町を思わせる紅葉樹。会場入り口近くに別スペースで幸福駅のベンチらしきもの。会場内に入ると一瞬で旅情豊かになる。

    物語は主人公・高木正志(早戸裕サン)と幼馴染、そして彼の妹が騒がしく燥いでいる。今日は旅行に行くために駅に集まっているが、正志が遅れているため、服部司(山崎真由子サン)を残し、他のメンバーが先に出発。いつもやっている遊びのようなことに、お題を決めて砂時計を逆さにして、砂が流れる間に自分の思いを話す。1人ひとりの夢が生き生きと語られる。そこでは自分らしさや地元愛に溢れたことを熱く語る。
    そんな田舎町に東京から鉄ちゃんが毎年やってくる。鉄道好きという写真や珍パフォーマンスで笑わせる。中村商店の御隠居・中村茂道(若林哲行サン)は記憶が断続的になってしまう病で、常連客の顔・名前を覚えられない。この役どころは重要で、記憶は忘れ物を探すに繋がり、話の観せ場である思い出へ導く。そしてもう一つの物語が、東京から来た女性・堀口ひさと(山田奈保サン)の不審な行動が絡んで、物語の核心へ…。

    観せ場は、正志とひさと が砂時計を逆さま(「ひっくり返す」という遊び名)にして、苦しい胸の内を打ち明けるシーン。正志の件は劇場で観てほしい(「さるしばい<2014.3>」でも観劇しており、また再演するかもしれない)。ひさと の悩みは学生時代からの苛め。親しいと思っていた友人から遺書まで作成される。それでも頑張って学校は卒業したが、我慢した後から苦しみが追いかけてくる。死に場所を求めてこの地まで来た。それまで場内は笑い笑いで穏やかな空気が流れていたが、2人の心中、その吐露した言葉で場内はシーンとなり空気は一転する。驚愕の事実に今度は涙が止まらない。先ほどまでツボにハマって笑っていた観客がハンカチを手放せなくなる。悲しい出来事を思い出という楽しさを後景に従えて観せる演出は実に上手く、最大の効果を発揮。冒頭、観客自身も幼馴染として同化・感情移入しているから、楽しかった思い出がまざまざと甦る。芝居か と思わせるような自然体の演技、そこにリアルな日常の遣り取りが観える。そして何といっても早戸裕さんの1人漫才的なボケとツッコミの笑わせが見事だ。

    舞台技術ー照明は、状況や1日の時間の経過(日中・夕暮れ)を明暗で、後景の紅葉等を意識した色彩照射も効果的だ。音響は優しいピアノの旋律が場内に響きそっと心を抱きしめている、そんな感覚にさせる。主題歌の「♫大丈夫だよと一歩を踏み出す・・・」は苦しい時に口遊む応援歌。
    卑小かどうか…廃線なのにどのようにして死のうとしたのか。来るにあたって時刻を調べるだろうし、そもそもどうやって来たのか、といった疑問もあるが…。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2021/11/06 00:46

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大