楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~ 公演情報 アン・ラト(unrato)「楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    一つまた新しい発見となった。じっくり丁寧に描き出す『楽屋』。

    ネタバレBOX

    上演によっては1時間を切る戯曲だが、この入場料を取るだけの内容に出来るのか・・と下世話な関心も持ちながら久々の赤坂RED THEATERの座り心地良い座席に収まる。
    開演。照明に照らされた舞台美術にまず目を奪われる(「楽屋」を見慣れてるので)。「演出」の仕事を印象づける大河内直子、今回はこれか、とまず思う。以前同じく赤坂REDで観たunrato舞台に少し似る(美術 石原敬)。雑然かつ整然と、くすんだ鏡台や調度が置かれ、ススキの穂がそこここに顔を出す。野に吹く風の音。小さく流れてくる優しく包む系の音楽(確かピアノ音)の中に、小鼓の音がポンと微かに鳴り、空耳かと疑っているとまた遠くで「よおーっ」と聞こえる。能のモチーフである鎮魂の舞台はなべてかつて戦乱のあった野っ原であったと合点する。

    楽屋を演じてきた女優たちの中で、飛び抜けて達者だという訳でないが、実力の確かな所はunratoの求めるレベルを担保。まず最初の見せ場、女優A、Bの演技のやり取りの中でもAがノリノリでやる「斬られの仙太」。渡世人の喋りを保坂知寿の細い低音が小気味よくぐっと来る。
    女優Dが登場して女優Cが舞台から戻った後の二人のやり取りとそのA、Bの受けで進むアンサンブルの場面は、A、Bがやや控えめ(二人の会話に気をとられて互いに奇妙なメイクをしてしまう所は実際にはやらず)、だが精神を病んだDが去った後、女優人生を振り返るDの独白場面は過去観た「楽屋」の中で最大級に熱を帯びた。「出来る女優」然を形象できる女優が激情を迸らせると、リアルにその自負と孤独が浮き彫りになった。先まで陰でDを悪口を投げていたA、Bが、心の底から共振し静かに聞き入り、正面(鏡)を向く二人の内面をさらした表情が揺らぐ照明の中に浮かぶ。
    クライマックスをこの場面に置いた事で、最終場面(Dが亡霊となって再び現れる)が若干厳しくなるが丁寧に切り抜けていた。静かに意気投合した三人は下手端の蓄音機に生のレコードを置いて針を落とし、三人姉妹の役らしい衣裳を各人がまとう。感情を高ぶらせ過ぎず、押さえ過ぎず、イリーナ、マーシャ、オリガが台詞を言い、オリガの途中で照明が落ち、台詞「それが判ったなら」が残る。風。

    殆ど大勢に影響のない難点を敢えて挙げれば、冒頭場面でDが忙しく鏡を覗いてメイクをチェックする目線が鏡面と垂直でなく斜めだった事(やっぱそこはリアルに)。AとBの二人が言い合いになって物を投げ合う所で、最後の一投げ「えいっ」(畜生という心の声)が欲しかった。DがCの迫りに思わず激高して酒瓶を手に殴る所は「咄嗟」にしては手を伸ばす距離が(重箱の隅だが、逆に他が完璧という証左?)。
    ただしその殴った瞬間(衝撃音)、その酒瓶(割れたず)があっと言う間にどこかへ消え、目で探したが見つからず、うまい処理であった。
    (上演時間:1時間20分)

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    2021/10/25 08:57

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