そして、死んでくれ 公演情報 M²「そして、死んでくれ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    強烈な作品。85年前に起こった陸軍“皇道派”によるクーデター未遂、「二・二六事件」を真摯に叩き付ける。上演前会場では事件の半年後に開催されたベルリン・オリンピックのラジオ実況中継が延々と流され、当時の空気感が醸成される。事件に興味を持ったなら、笠原和夫脚本の映画『226』が判り易い。(映画の出来は悪い。)

    磯部元一等主計〈=大尉〉(小山貴司氏)、映画版では竹中直人。一線を越えた狂気のテロリストの目をしている。
    栗原中尉(豊田豪氏)、映画版では佐野史郎。兵士を率いて行進する写真が有名。
    安藤大尉(ナカムラユーキ氏)、映画版では三浦友和。決起への参加を最後まで保留し続ける。どことなく奥田瑛二に似ていて思慮深く理智的。
    野中大尉(中西浩氏)、映画版ではショーケン。「我狂か愚か知らず、一路遂に奔騰するのみ」との句が有名。
    河野航空兵大尉(熊谷嶺氏)、映画版では本木雅弘。思い詰めた文学青年の繊細さを感じさせる。
    真崎大将(織田裕之氏)、映画版では丹波哲郎。斉木しげるっぽい、すっとぼけたコンニャク的応対がリアル。

    この国を良くする為に、1483名の兵を率いて複数の権力者を暗殺し警視庁を占拠。「昭和維新」を掲げ、天皇親政の軍事国家の樹立を目指す。ほぼ史実通り、徹底的に削げるだけ削ぎ落とした出演者九人だけの密度の濃い「二・二六」。思い詰めた観念が迸り、噴出する情念が鮮血となって真白な雪を染め上げる。劇団チョコレートケーキが好きな方にお勧め。”暴力“とそれを突き動かす“強靭な精神”だけが世界を変える。

    ネタバレBOX

    物凄く面白いのだが、話の納め方が気に入らない。天皇に逆賊と罵られ、酔いが醒めたように一転して矛を収める一同。独り安藤の怒りがクライマックスになるのは映画と同じ。「天皇を敵に回してでも戦い抜くのではなかったのか?」、全てを捨てて参加を決めた安藤の慟哭。ここが日本人の限界なのだろう。
    決起将校の妻として女優が二人登場するのだが、余り必要なシーンとも思えない。もう少し工夫してこの話を広く多面的に語れる役柄にするべきだった。

    当時の日本は謂わば巨大な宗教団体であった。昭和天皇が教主(本尊)である。昭和恐慌にて東北の農村が貧困に喘ぎ、対極的に癒着した政財界は肥え太り、貧富の差は増々拡大するばかり。生活の立ち行かない家族を日本に残して、満州に派兵される若き兵士達。統制派(=陸大出のエリート、キャリア組)と皇道派(=地方農村出身者、戦地で任務に当たる)の対立もあった。「この”宗教“は正しいのに、この惨憺たる現状は運営している執行部が腐っているからだ。腐った奴等を斬奸して正しい組織に立て直そう。“教主”ならば我々の真意を必ず理解してくれる筈。」、そう信じて起こしたクーデターだったが、意に反して“教主”は激怒した。「蹶起(けっき)部隊」を「叛乱部隊」とし、自ら近衛師団を率いて鎮圧するとまで言い放つ。“教主”への過度な幻想と誤解が生んだ悲劇。そもそもこの“宗教”は果たして本当に正しかったのか?「天皇陛下、お先に参ります!」

    天皇を守る為に自らが全ての汚名を背負うと云う忠臣的ヒロイズム。その美学の名の下に隠れた醜い自己肯定こそが、歪な現実から目を背けるこの国独自のシステムとして機能してきた。
    そんな気持ちの帰り道、川崎駅で顕正会(日蓮宗系の新興宗教)の勧誘に遭った。

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    2021/10/14 23:09

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