哲学者の午睡 公演情報 空間旅団「哲学者の午睡」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     プロレスの試合をガチでやれば無論どちらかが死ぬかさもなければ再起不能の大怪我を負うのは必定。格闘技をそれなりにキッチリやった経験のある者が見ればそれは自明だ。
     今作の基本構造は、哲学とプロレスをマッチングさせた上で、真剣勝負とシナリオのあるショーとしてのプロレスを対比させることで、哲学上の真と偽のテーゼを中心に展開する物語だ。サブストーリーとして権力VS民衆、男と女、友情等々は無論出て来る。

    ネタバレBOX


     今作の主人公・プラトンは、ここ暫く試合はしていないものの300連勝無敗の覆面レスラー・ソクラテスに心酔し押し掛け弟子となった。単にプロレスの師匠としてのみならず、政界の重鎮や各界の名士、高位の者らを公衆の面前で論破した哲学者として盲信し弟子となったのである。然しソクラテス自身は、妻の論法を真似ただけだと主張する。が、この態度も謙遜と見做しプラトンは持論を変えず、所属プロレス団体のガチプロレスラーとしてこれまでヒール専門だが、矢張りガチ専門のレスラー・アレクセイと30戦して30敗。毎回死の懸念があるような試合にプラトンを慕う彼女も「もうついて行けない・・・」と迷い出す始末だ。にも拘わらず、プラトンの念は変わらずイデアを求め続けている。そんなプラトンに周囲の者達は魅力を感じているのも事実であった。
     一方、公衆の面前でソクラテスに恥じをかかされたと感じ恨みを抱く者達は、その権力や威力を用いてソクラテス弾圧に舵を切った。無論、弟子プラトンにも警戒を緩めて居ない。このような状況にあってプラトンの所属するプロレス団体は、経営が思うように行かず破綻寸前で辛うじて生き延びているが、団体トップは興業成績を上げる為、ソクラテス本人の了解も得ずにソクラテスVSアレクセイの試合をマッチングしてしまう。ソクラテスは1度もガチプロレスをやったことが無いのに、アレクセイ側が試合の条件として出してきた条件は、そのガチ試合(セメント)であった。
     ここから先はホントのネタバレになるので控えるが、最終的には弁証法的論法によってアウフヘーベンされて舞台は終了する。
     ところで、池袋演劇祭参加作品ということだが、本気で賞を目指すのであれば、プロレスラー役の役者は総てもっと身体を鍛え上げて出演すべきであろう。嘘が嘘としてキチンと機能するには、嘘が真実だと思われるほどの真実味がなければならない。フィクションであると断り書きはあるもののソクラテス、プラトン、クサンティッペ、クセノポン等は、ギリシャに実在した人物として現代に迄名が知られており、多少哲学を齧った人間ならば遅くとも高校生位の段階でこれらの名は記憶に留めていたハズだから、ギリシャに対するイメージもそれなりにキッチリしたものを持っている。ホメーロス等も読んでいよう。而も今作のテーマが、真と偽、イデアと現実等々対立・相克の克服である以上、通常のショーとしてのプロレスを嘘の象徴と見做すならば、それが本物に見えるように嘘が真(まこと)として成立し得る脚色が必須であろう。また費用の関係でギリシャ風の履物が用意できないのであれば、素足で演じ、衣装とのバランスを良く考え演出を工夫すれば演劇的真実は描けたハズだ。様々な点で不徹底だが、訴えたいものは伝わってくる。今後の成長を祈る。

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    2021/09/21 15:35

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