娼婦 奈津子 公演情報 新宿梁山泊「娼婦 奈津子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    パギやんこと趙博が自作を梁山泊に持ち込む、の巻。第3か4弾になる。
    弾き語りシンガーだけに歌と演奏入り舞台が特徴であるが、今作もこの系譜にして「演劇」作品として傑作と言える舞台であった。作者によるオリジナルは恐らくラストのみ、他は所謂「洋楽」(ほぼ70年代か)だがこれが優れた劇伴となっており、芝居本体に見どころがある。数年経っても脳裏に過ぎる観劇になりそうである。

    ネタバレBOX

    入場するとステージ奥にバンドセットが見える。少しわくわくする。・・と、妖艶な娼婦と若い常連客の絡み。男は女に首ったけらしいが質は悪い。オンリーになれと迫るもやんわり断られ、いきり立つ男。修羅場到来。おもむろにギターとドラムの一打、「BURN」が生でポテンシャル高く演奏される。
    書きたいこと、言いたいこと仰山持ってる人なんやろな..。趙博氏がどこからこの話を立ち上げたのか判らないが、今という時はこの芝居を待ち望んでいた、なんて台詞を吐きたくなる心持。ラストソングの合唱は自作だろう、ストーリーを反映した歌詞「言いたい事を言い、生きたいように生きる」が、今の現実とシンクロする。もっとも「空気」はメッセージ色を忌避する。空気を吸う自分も言葉を耳にして一瞬怯む。が、そこへ至る90分の芝居にはそれを弾くだけの密度がある。
    今回尊顔を拝めなかった金守珍のキレ味良い演出も効いただろうが、何より娼婦に行き着いた奈津子の人生を全人的に存在させた蜂谷眞未に圧倒される。物語世界が抒情とリアルを以て地上2階の床上に現われ、蜃気楼のように消えた。

    配役では、気性の激しい彼女を静かに受け止める李弁護士(広島光)・・李(リー)という名がまた良い。特に在日だとかいった説明はないが、日本社会の仕組みの中で資格を取り片隅で自分の領分を守り生きて行く順応型在日でありながら、ただ名前は李を名乗る・・絶対に己を語りはしないが李とだけ名乗って生きて行く・・静かな物腰の中に芯の強さを湛える見事な設定で、好演。そして奈津子の実母(のぐち和美)、型の演技を繰り出す印象ではあるが「大好きなお母さん」と幼い奈津子が言い、ある時期から見向きもしなくなった母親と娘の風情がこれも見事なマッチング。裁判に彼女の精神鑑定を出した精神科医(島本和人)が悪役の一方を担い(いささか哀れ)、時々パギやんと漫才風やり取り。ベテランの域だ。
    音楽(生演奏)の挿入箇所も選曲も穿っており、演奏には奈津子の義父役(ジャン・裕一)のベース、留置所行きダンサー(神谷沙奈美)のサイドギター、ドラマー役(諸治蘭)のドラム、島本のリードギターでガッツリ演奏する。諸治女史は指導を受けての演奏、やや走り気味だったが骨のあるドラムプレイ。ある意味クライマックスがロッドの「Sailing」、ヴォーカルは蜂谷眞未。

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    2021/09/19 04:46

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