映像鑑賞
満足度★★★★
【Amazonプライムビデオ】岩井秀人特集
・『て』2018年上演 (1時間50分)
・『夫婦』2018年上演 (2時間2分)
・『ヒッキー・カンクーントルネード』2010年上演(1時間21分)
・『ヒッキー・ソトニデテミターノ』2010年上演 (1時間57分)
・『投げられやすい石』2010年上演(1時間11分)
観に行く予定にしていた山口情報芸術センターの公演が急遽中止になり、ガックリしていたところだった。Amazonでまとめて観ることができてよかった。
まず最初に観た『て』は、浅野和之が出ると知って観に行こうとぎりぎりまで迷って諦めた公演。舞台に登場した浅野がカツラを付けながら、携帯電話の電源を切る等の諸注意をし、そのまま芝居がはじまる。女性(母親)の役を男優が演じるのはハイバイのお約束らしい。声もしゃべり方も特に変えないのに、違和感なく母親に見えるのは役者が巧いせいか・・?
田舎の実家に親類が集まってという経験があると、いちいちあるあるの感覚で、ちゃぶ台とその他すこしの小道具があるだけで、いろいろな場面を演じても全然ついていける自分に驚く。
次に見た『夫婦』が一番面白かった。おススメよ。
岩井秀人の芝居は、私小説ならぬ私演劇と呼ばれているらしい。本人役も登場するが、岩井が演じているのは問題!の父親役。あとから写真をみて衝撃だった。まるでロールプレイのカウンセリングみたいじゃん。子どものころから兄弟で殺害計画まで立てて憎んでいた父親を演じる心境ってどんなだろ。
母親役は髭面まま! 山内圭哉が演じている。
役者が舞台の上で衣装を着替えながら、何役も演じるのだが、見ている観客は全く戸惑うことはないと思う。
普通の青年だった男が、結婚したとたんにDV男に豹変する。運が悪いと多くの女がこんな目に遭う。それでも死因が納得できずに医療ミスを追及する家族、この不可解な心理を舞台は圧倒的な臨場感で演じ出してくる。
観客は、自分の中の苦しさを受け留めて貰ったような奇妙な安らぎを感じるのではなかろうか。まるで幼子のように。
次に、観劇の前にぜひ観てから来てほしいと岩井が言っていた『ヒッキー・カンクーントルネード』
そして、公演中止で観に行けなかった『ヒッキー・カンクーントルネード』、これは岩井の処女作で、一連の作品を発表後、もう新作は書かないのだという。
分かったようなつもりでいた自分が間違っていて、そういうことかとやっと分かろうとした挙句、再び突き放されるという、まるでジェットコースターのように私の心が揺さぶられる。
『投げられやすい石』は、演劇版人間失格って感じ。
みっともなさ、情けなさを、あんなふうに舞台の役者で見せられるのは、観客の精神衛生上すごくいいと思う。