チーチコフ 公演情報 劇団俳小「チーチコフ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    表層的な面白さだけではなく、意味深な公演。
    原作はゴーゴリの「死せる魂」であるが、公演タイトルは原作主人公の名前「チーチコフ」にしており、上手いネーミングだと感心というか納得してしまう。物語は小役人の詐欺旅(狂奔)を描いているが、この物語全体がフェイクではないかと思わせる。同時にコロナ禍における或る出来事を連想させ、揶揄というか皮肉たっぷりに描く。

    物語は複雑ではないが、その観せ方が凝っており、公演自体が詐欺に絡めた騙し絵のようだ。だから原作名を付けない、そしてチラシデザインが「👅あっかんべー」なのだろう。事実は小説より奇なり というが、19世紀中頃に書かれた原作を後追いするような事件が日本で起きようとは…。舞台の雰囲気は軽妙洒脱であるが、描かれている内容は極めて辛辣だ。
    (上演時間2時間 途中休憩15分)

    本公演は第33回池袋演劇祭参加作品のため、☆評価は後日付。

    ネタバレBOX

    舞台美術は、形・色違いの可動式ジャングルジムのようなオブジェが幾つか重なり合っている。場面に応じてテーブルや椅子が持ち込まれ情景を作り出す。上手側奥にピアノ伴奏の上田亨 氏。
    冒頭は、切込みの入った幕に煽情的な影絵シーン。官能的なダンスを観(魅)せた後、幕が切って落とされ、セクシー衣装を着た3人の女性(コーラス・ガール)が現れ軽やかに踊り歌い出す。

    原作は、19世紀の帝政ロシアの某所で詐欺事件が起きる。戸籍だけが存在している死んだ農奴(死せる魂)を買い取り、生きている農奴として登記し、彼等を担保に銀行から多額の貸付金を騙しとろうという大胆な事件。その犯行の首謀者がチーチコフ(大川原直太サン)。貧しく育ったが、努力を重ね小役人の地位を得ている男。今はブリーチカで召使いを連れ、将来は大地主となり幸せな家庭を持つことを夢見て、「死せる魂」を買い集める旅を続けている。

    公演自体がBarかPubでのショーのように思える。そう考えると、原作にあった貸付金を騙し取るような台詞はなく、ラスト近くでチーチコフの上前を撥ねる(もっと大金を脅し取る)ような台詞に違和感を覚えたから。
    チーチコフを捕らえた或る県知事が「釈放」と今まで買い取った「死せる魂の名簿」と交換に多額の金銭を要求する。その際、「例の支給金ですな」とニヤリとする。人の欲は際限がなく、せっかく集めた「死せる魂」を大悪党である県知事等に交(買)わされるという皮肉。この件が、日本のコロナ禍における事件を連想させる。コロナの影響による企業への経済的支援(補助金)の施策を悪用し、ペーパーカンパニーを利用し補助金を詐取する事件に酷似している。
    人の欲は、ちょっとした落とし穴で行き詰る。公演でも欲深い老女が、「死せる魂」の相場を知りたいと疑問を持ち、わざわざ県知事の社交場まで来る。また悪友・ノズドリョフの執拗な詮索(「死せる魂」を買い集める目的)がチーチコフの癇に障る。その欲に対する凄まじいまでの貪欲さを滑稽に描く。

    ショー仕立てにした公演(劇中劇)は、小悪人の必死さと大悪党が悠々とその上前を撥ねる皮肉、原作の非現実的な出来事が現代の日本で類似事件として現実的になる皮肉、それを小気味よく観せる。コーラス・ガールの煽るような「チーチコフ!」の掛け声、出ずっぱりの大川原さんを休ませ、他の登場人物が揃いミュージカル風に歌うという演出的工夫も上手い。そしてコーラス・ガール等への歌唱指導、同時にキャバレーのママ・プリューシカとして登場している片桐雅子さんの魅惑的な存在も印象的だ。ショーという虚構の中に落とし込んだ虚・実の世界観を堪能した。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2021/09/03 16:48

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大