二等兵物語 公演情報 ★☆北区AKT STAGE「二等兵物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い!
    何故 こんなハチャメチャなシーンがと思うところもあるが、これがしっかり伏線になっている。頭も体も硬くなってきた自分には、即理解という訳にはいかない。まずは観たままを素直に受け入れ楽しんだ。

    何故「二等兵物語」をこの時期に_コロナ禍にあって少人数での公演がトレンドと思われる中で、北区AKT史上最多となる客演陣を迎えて上演するか。これには東日本大震災の今でも消えない傷跡が関係しているらしい。当日パンフに代表・時津真人氏は、その傷跡と戦争の傷跡がリンクしているようでと書いており、夏の公演に選んでいる。その意味では、とても意義深いものを感じる。

    従軍慰安婦・チュンジャ役の鈴木万里絵サン(A)の演技がほめられているが、自分が観た白濱貴子サン(B)も良かった。ということはどちらの回を観ても楽しめるということ(劇団関係者や、PRでもないデス)。白濱サンの演技は2回(卒業公演「売春捜査官」「逢瀬川(ダンスのみ)」)観ているが、ダンスが得意というだけあって集団パフォーマンスでもキレキレに踊っていた。ところで他の女優陣はモンペ姿であったが、彼女は現代(ワイドかガウチョパンツ)ファッションのまま物語に入り込む。時は昭和20年 満州という設定から違和感を覚えるが、これにも理由がある。

    何故か、物語に映画「八甲田山」(当日パンフの裏面に「FOOTNOTE」が小さい字でびっしり書かれ読み難い)が挿入される。これにも理由がある。小さい文字で書かれた最後の2行が深い。

    観劇中、先に書いた“何故や理由”が脳内で連発する。しかし自分の枯れてきた感性、硬化してきた思考をフル回転させるが、観ている時に理由付けなど出来ようもなく、理屈抜きに楽しんだ。観劇後、内容を振り返えり そういうことかと得心する、そんな楽しみも出来る1公演で2度美味しい二等兵ならぬ大将(賞)級の物語。
    卑小と思いつつも、白濱サンの演技_凜としているが、もう少し媚というか潤が観れたら、なお良いかな~と勝手な思い入れ。

    (上演時間2時間)  2021.7.12追記【Bチーム】

    ネタバレBOX

    素舞台。♪アカシアの径
    つかこうへい作らしい、揶揄・批判等をしっかり散りばめ、物語に幅と深みをつける。冒頭のトラベルガイドのシーンで主人公の二等兵(つかてつおサン)が現れる。戦後30年ほど過ぎているこの冒頭シーンが、劇中に登場する映画「八甲田山」のラストシーンに繋がる。そもそも「八甲田山」は日ロ戦争を想定した軍事演習を描いているため、本公演とは時代背景が異なる。しかし戦争という最悪の不条理と死んでも愛をという思いを重ねる。

    昭和20年満州 軍事教練のような場面。小隊長(草野剛サン)が二等兵(正直屋、花奴、教育長、福祉、高之坊、そして間男)たちに悪口雑言を浴びせている。例えば、八百屋を営んでいる正直屋に対し、人殺しが商売できるのか。教師をやっていた教育長に対し人殺しが子供に教えられるのか等々。それに対し二等兵たちは”戦争”だから、異常時だから仕方がない。戦時下にあっては理性、ましてや正義などあろうはずもない。すべて”戦争”が悪いのだと言い張る。その戦争に勝つためには病気、特に性病などに罹ってはならない。そのために従軍慰安婦がいるのだ。人格崩壊の必要性や慰安婦の必要性などを歪に説明していく。面白可笑しくデフォルメしているが、底には狂気を孕んでいる。

    主人公・二等兵と従軍慰安婦の場面。1回の安らぎの時間は40分。兵は何もせずに、慰安婦の肩を揉んだり、自分の身の上話を始める。しかし残り10分になったところで欲情し、突然襲い掛かる。あと5分、2分と計3回も…。慰安婦の呆れ悪態を聞き流し、結婚しようと口説きにかかる。2人に情愛が芽生えるが、状況が許すはずもなく兵は銃殺。その直後に敗戦の知らせと玉音放送が流れる。2人が庇い合うシーンが見せ場の1つであろうが、自分は兵の身の上話も印象深い。青森県の貧農出身、八男坊で生きて帰っても田畑はなく生きていけない。むしろ家族にとって自分が戦死してくれたほうが恩給?が貰えるからよい。他の二等兵たちも同じような境遇にあることは容易に想像がつく。
    さて二等兵(小隊長も含む)たちの服装は薄汚れた当時のもの。一方、慰安婦は現代ファッションのまま。これは、二等兵にとって慰安婦はあくまでミューズであり、同質化させない演出であろう。

    戦後の「スナック満州」場面。戦後の荒廃した状況、占領下におけるGHQへの媚び諂いといったシーンを挿入するが、これはスナックでの寸劇。つまり劇中劇である。元二等兵たちの前で、元小隊長が恥も外聞もかなぐり捨て土下座するような内容である。一見、不自然な場面に思えるが、戦後の何と大らかで平和な、そして状況が変われば、権威・権力等は取るに足りない薄っぺらなものと思わせる。戦時中との対照場面として強調している。何でも”戦争”のせいにしてきた、コンプレックスを抱えた人たちの笑うに笑えない悲哀と似非ヒューマニズムが透けて見える。

    元小隊長と慰安婦だった女が寄り添う所へ、主人公二等兵が現れる幻の邂逅場面。元慰安婦の告白…自分は朝鮮人と言っていたが、実は日本人であると。朝鮮人ということにすれば、威張り襲う等という差別的意識や行為がし易いといった心理を鋭く指摘する。また度々出てくる「八甲田山」のシーンは、神田大尉が徳島大尉を慕うといった同性愛(つかこうへい氏 らしい少数=弱い立場)を描き、弱者(貧農等)視点をそっと観せる。同時に神田大尉=銃殺された二等兵、徳島大尉が従軍慰安婦であり、賽の河原で会ったのだと…。狂界であった満州平原、それでも2人にとって思い出の場所で待つのだ。ラストは感動だ。

    最後に、良い芝居なのに何故⭐5ではないのか。
    実は、自分が観た回で通路を隔てた隣席人の携帯が鳴り、見所と思われるシーンの台詞が聞き取れなかった。周りの人達の顰め面は言うまでもない。この御仁、急いでいたのか、居たたまれなかったのか、終演後、脱兎の如く会場を去った。開演前の場内アナウンスで携帯の電源は切らずにマナーモードで可。またコロナ対策のため列ごとの退場を呼び掛けていたが、終演後にアナウンスしているから徹底できていない。公演は、制作面も含め観客に満足してもらうもの、と思っている。今回の隣り合わせは不運。
    改めて言うが、芝居は面白い。場面ごとに観れば面白可笑しいが、全体を通して観ると恐怖と感動の隣り合わせ。こちらは大歓迎だ。
    次回公演も楽しみにしている。

    0

    2021/07/10 09:12

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大