春の終わり〈青年座・那須凜主演!シアター風姿花伝 劇作家支援公演〉 公演情報 ENGISYA THEATER COMPANY「春の終わり〈青年座・那須凜主演!シアター風姿花伝 劇作家支援公演〉」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    舞台には、 美しく佇んでいる婦人たちが描かれ、そこに抒情的な説明文が添えられている。そんな絵(人物)画を鑑賞してきた気分である。つまり描かれた婦人たちは立ち上がり動いてこない=長い人生が見えてこないのである。自分の感性が渇いてしまったのかもしれないが、期待したほどではなかった。

    物語は現在(70歳)と約50年前(20歳代)を往還し、外見的な老若の違いを見せる。確かに若い女優が素のままの姿で溌溂と老女を演じ、外見的には円背姿勢、ゆっくり、ハッキリ話す口調など、高齢者の特徴を表していた。また若い時代を挿入することで演技の違いを際立たせる。いや逆に、実年齢に近いこともあり、若い時代の方が生き生きと本来の演技を観せてしまう。良し悪しは別にして”演技の力”は観ることが出来た。しかし演じている彼女(老女)たちの人生は置き去りにされ、表面的な物語だけ。これは演技の問題だけではなく、脚本・演出が「女の一生」の過程と終末期を描き切れていないことが原因だろう。

    ENGISYA THEATER COMPANYは、「何もない空間に 命の風景を創る」をテーマに役者育成に取り組み公演を重ねているという。演技で言えば、外見的なことだけではなく、「女の一生」その死生観の内面を演じ切らなければ、真の「春の終わりに」ならないのではないか?素のままでも、この先を想像し(それも膨らませ)て老女にならなければ、と思うのだが…。
    (上演時間2時間25分 休憩10分含む)【Aチーム】

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央にブランコ、それとベンチが2つ。前半のみ箱馬がある。色はすべて白であり、どんな人生にも染め(照らし)上げられるようだ。ベンチは、それを動かすことによって時々の状況や情景を描き出す。舞台技術ー照明は単(淡)色をスポットに照射、音響はキャストが自ら歌(「星の流れに」「木綿のハンカチーフ」等の昭和歌謡)い、物語に人生を吹き込むような演出だ。演技は老人時と若い時では立ち居振る舞い、そのテンポの軽快さで観(魅)せる。もちろん衣装も着替える。小道具等は無しでパントマイムで補う。

    梗概…小説家しのぶ(那須凜サン)、その友人たちが住む「老女たちのシェアハウス」の物語。しのぶ の独白「死、というものがとうとう私の身に迫ってきている。物書きとしても、一人の人間としても当然そのことについて考えざるを得ない。・・・命の春の終わりをどう締めくくればよいのだろう?もうあまり時間は残されてはいない。」と。人生は自分だけのもの、最期 どう自分の死を見つめ後始末をつけるか、その小説を書きたい。

    基本的には現在から過去を回想し、物語は現在・過去を往還するように人生を表現する。併せて自分の孫娘や同居している友人の娘、孫娘との関りを、ある問題・心配事を絡めて描くことで起伏を入れる。

    シェアハウスの6人(少なくとも、しのぶ・優子・藤子の3人だけ)の性格や人生の歩みをもう少し具体的に描き、人生の哀歓が見えると良かった。優子は早い段階で病死(以降は霊のような存在で俯瞰)しており、子供を現さず孫が登場する。時間の経過は見え感じることは出来ず、逆に20代と現在(70歳)の間に時間の分断が生じている。

    物語が動いて見えないのは、次のようなことではないかと思う。
    第1に、シェアハウスに居る6人の老女(優子<古藤ロレナ サン>は早い段階で鬼籍)の20代から70歳に至る過程がほとんど省略されていることから、人生の歩みを描写しきれていない。かろうじて藤子(岩永ゆいサン)が独身を貫き舞台女優として生きてきたこと。唯一の男優・周 役(松田周サン)との恋愛事情を絡ませたことぐらいしか印象にない。後の3人(静佳〈諸藤優里サン〉が愛人、咲〈大竹華サン〉が元国連職員、春子<大地葵サン>が看護師)は、ほとんど台詞で説明。
    第2に現在は、孫(例外は春子と娘・玲奈のみ親子)との関りを主にしているため、直接子供の存在を飛び越え、時の経過とともにあるべき家族関係が描けていない。人との関り、その中で生きてきた証ーー喜怒哀楽といった情感を削ぎ落したよう。それゆえ「生きる」もしくは「生きてきた」が希薄で、逞しさのような生活臭がない(第1と同趣旨かも)。美しく纏った人生、抒情的そして感傷的な印象が前面に出ていた公演。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2021/07/07 16:43

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