忘れる滝の家 公演情報 ムニ「忘れる滝の家」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    青年団若手自主企画らしいムニ/宮﨑企画の「静かな演劇」。同じアトリエ春風舎で観た前作との共通点は・・ストーリーより空気感、省略された台詞、謎解きに頭脳が駆使される、静けさ、舞台の周囲が闇に溶ける(春風舎の特徴?)。中で、ムニの最大の特徴は、複数エピソードが舞台上でニアミスで行き交う演出だ。
    前作は3~4組の会話と行動が近い時空で交錯したが、今作は2つの異なる時空(40年離れているとか)のわりと書き込まれたエピソードがやはりニアミスしながら進み、接点も持つ。

    始めに難点を言えば、ストーリーは緻密でなくイメージを伝える詩的世界に近いが、世界観はストーリーを介して伝えるしかなく、やはりストーリー説明の省略具合がネックになる。2つのエピソード(過去、及び現在or未来)を繋ぐ一人の男が、「同一人物」として登場しているのかどうか迷走する(名前は同じだが同一性が希薄)。さほど関連がないと見切るまで、芝居中に「徒労感」に落ち込まないよう「謎」が提示され続け観客もある程度騙され続けはするのだが、脳のどこかでは気づいている。しかし・・不親切に置かれて行く点が最終的には辛うじて「像」を結び(仄めかし)、消え去りそうな像を2つの世界の対照の含意が繋ぎとめる糊となり、ギリギリ成立したと思った。不思議な間合いや、役者の意味深な風情が「徒労」に帰する予感は幾度も訪れたが、それは回避されたという事である。

    以下は一観客の気まま勝手な(舞踊を解釈するのに近い)受け止め。
    役者は何かそこに無いものを見ている。彼らを規定している現実に対面しながらそこにないものを憧憬し、求め、寄る辺とする風情において共通するように見える。今やセピア色とインプットされた過去シーンは、世代の移り変わりと継承の哀愁を描く小津安の世界で、母は過去を眼差し、それを語って娘の未来への恐れを融かす。娘の友人とはらしい会話でホッとさせられ、登場しない「叔母さん」の事が会話によく出てきて昭和な世界である。方や現代or未来シーンはパンフには40年後とあるが40年でなければならない物理的事情はなさそうだ。こちらは冷たい青系の色で記憶されているが、現代風カップルの会話から男が突如訪問を受けた友人の誘いで山に行くあたりから謎めいた展開となり、2つの世界に共通する存在(役名・役者が同じ・・だがどう見ても別個の存在)との遭遇から(背景が山という事もあって)無色透明、従って山の深い土色になる。ここでは現代世が過去と出会いながら、自然的なものと出会い直す未来を見通そうとしている何者かの意志(作者ではない?)を感じ始める。筋そのものは作者の中では通っているかも知れないが観客の目に映る範囲では破綻又は叙述足らず。だが、我々の世界への「予感」を持つには十分な欠片が散りばめられていて、個々の話題について何か喋りたくなる。後味良し。

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    2021/03/20 08:59

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