帰還不能点【3/13・14@AI・HALL】 公演情報 劇団チョコレートケーキ「帰還不能点【3/13・14@AI・HALL】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    日中戦争から日米開戦まで、どこで選択を誤ったのかを検証していく。珍しい知的社会派エンターテインメントといえる。歴史の検証を楽しく見せた戯曲・演出・俳優の軽妙な演技は素晴らしいものである。近衛文麿の目印をえんじ色のたすき(勲章?)に、松岡洋右は帽子を目印に、歴史上の人物を違った役者(登場人物)が入れ替わり立ち代わりして演じる。おかげで変化が生まれて全く飽きなかった。ただ、近衛文麿と松岡洋右の責任が大きいとするのはどうか? わかりやすいが、零れ落ちるものも多い気がする。ただ、東条英機を主犯のように扱う俗論ではなく、一つの歴史の見方として説得力があった。自分でも調べてみたい。

    加藤陽子『とめられなかった戦争』と日中戦争と日米開戦はダブルが、その途中、日独伊三国同盟や南仏印進出はあまり考えていなかったので、ここは発見であった。
    加藤陽子は満州事変までさかのぼっているし、わたしがかつてこの問題で記事を担当したときは対華21か条の要求までさかのぼった。日露戦争の勝利や、明治維新にまでさかのぼる人もいる。奥の深い問題だが、あまり「歴史の必然」ばかり考えると、ありえた別の道が見えなくなるのは注意。

    1941年の「総力戦研究所」の模擬内閣は史実。そこに注目した発想が面白い。その史実から発想して、日中戦争からの歴史の検証に広げたのが古川健氏の工夫である。

    ネタバレBOX

    前置き的場面で30分、戦争の検証劇で1時間。残りをどうするのかと思っていたら、書記官長だった岡田(岡本篤)が「俺たちは負けるとわかっていたのに、(戦争を食い止めるため)何もしなかった」と号泣する。死んだかつての仲間も、その罪の意識から死に急いだとわかる。この問題提起にはうなった。そこまで考えるかと。

    しかし現実はどうか。政府内部や敗戦を予想した人間で「何もしなかったこと」に罪悪感を持った人間は実際にはいなかったのではないか。そこに個人の責任意識の希薄な日本人の精神風土を思う。何もしなかった、というより、戦争に心ならずも加担したことを悔いた人物としては、鶴見俊輔、むのたけじ、三浦綾子が思い浮かぶ。鶴見俊輔は「何もしなかった」ことをもっとも悔いた人間ではないだろうか。

    0

    2021/02/23 19:43

    2

    0

このページのQRコードです。

拡大