満足度★★★★★
鑑賞日2021/01/22 (金) 18:00
座席1階
シェアハウスの物語というと、住民の人間模様とか軋轢とかの話だろうな、と軽く予想して中野へ向かった。果たしてこの舞台、大家一家の人間らしい物語が絡むというちょっと予想外の展開で、満足度は非常に高かった。脚本の勝利だと思う。
駅近なのに格安のシェアハウス。住民たちの話題は大家の奥さんにとてもよくしてもらった、というところから始まる。その奥さんは入院しており、1か月もすれば退院してくるだろうという。ところがこの奥さん、住民たちの物語を結ぶ影の主人公なのにもかかわらず、最後まで姿を見せない。この点が最大の「予想外」であり、ここから涙腺が緩むストーリーが転がっていくのである。
ラストシーンかと思われたところ、人への思いやりが大切、という話がでてきて失礼ながら「ちょっとありきたりで説教臭いな」と感じてしまった。ところが暗転後にまだ、舞台は意外なエピソードが盛りだくさんという形に花開いていった。
あまり書くといけないのでこの程度にしておくけど、とにかくこのシェアハウス物語、いい意味の意外性が何度も訪れ、そのたびに舞台に気持ちが吸い込まれていく。まさに見ずにはいられないという気持ちになる。
脚本を書いた岩瀬晶子さんは青年座研究所を卒業して、劇団日穏を主宰している。青年座に書き下ろすのは初めてのようで、いわば故郷に錦を飾ったようなものだ。戦争や差別など社会派の作品が特徴というこの劇作家に、注目していきたい。
とてもすっきりした気分で久しぶりの中野、ザ・ポケットを後にした。演劇のよさというのは、こういうところにもあるのだ。緊急事態宣言下で、なんだか演劇を観に行くということすら周囲に言いにくいような雰囲気である。でも、観てよかった。私にとってはこの舞台はお得感満載の、価値ある舞台だった。