満足度★★★★★
鑑賞日2020/12/18 (金) 18:30
座席1階
ダニエル・キースの名作。彼が亡くなったというニュースが流れた時はショックだった。1990年から上演し続け、キースがメッセージを寄せた記録もある劇団昴のメンバーにとってもショックだったろう。この名作は、小説よりも舞台で輝くと思う。今もこのコロナ禍にもかかわらず上演が続けられているということで、キースも喜んでいるのではないだろうか。
この演目は実際、日本の他の劇団でも上演されていて、自分も機会があればみてきた。だが、やはり今回の舞台は感動的だった。コロナ下での厳しい状況での上演だったことも、役者の思いとなって客席に伝わり、それが感動の度合いを増したのだと推察する。
主役のチャーリー・ゴードンを演じた町屋圭祐は秀逸だった。知的レベルがどんどん高まっても、それに情緒的な力が追いついていかない、このいかにも人間らしい部分をうまく表現していた。そして何よりも、チャーリーが元の知的レベルに戻った時の彼の安心しきったような、底抜けな安堵感の表情がとてもすばらしかった。人間は実験道具でもないし、知的障碍者は単に知的レベルが普通になれば幸せになるなんてことはない。人間は一人一人が多様で、そのままで認められ、愛される存在であるのだ。
そういうところを、結果的に実験に協力する形となってしまった知的障碍者センターの先生を演じたあんどうさくらもすばらしかった。特にラストシーンに近いところでチャーリーに愛情をあふれさせる場面は見る者の胸を熱くさせた。パンフレットによると、昴の名作(であると私は思っている)「谷間の女たち」にも出ていたとある。あの舞台ではどんな役を演じていたのだろうか。もう一度見たいという思いだ。
もう一つ、アルジャーノンの姿をどう舞台で描くかというところもこの原作からの焦点だと思うが、もう少し実在的に描いても良かったかもしれない。実験動物が意思や知能を高めていき、人間のパートナーとなったのだ。その姿がもう少しリアルにあったほうが自分は好きだ。
シアターウエストの席を互い違いに封鎖して満席の半分以下にして行われた。東京都の感染者数が過去最高になるような状況だから、神経質になるのは分かる。自分も行くのは少しためらわれたが、この舞台は本当に行ってよかった。