刹那的な暮らしと丸腰の新選組 公演情報 グワィニャオン「刹那的な暮らしと丸腰の新選組」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    歴女の回想形式で展開する幕末伝_新選組の人間模様を中心とした歴史と今の出版業界の在り様、過去と現在を往還させ軽妙洒脱かつ鋭く描いた好公演。”生きてこそ”をしっとり感じさせる物語は、その後の新選組(隊士)と定年後の第二の人生を…生き様に悲哀も付きまとうが、それ以上に力強さを思わせる人間賛歌。実に見事な公演であった。
    (上演時間2時間 途中休憩10分含む)
    2020.12.1追記

    ネタバレBOX

    舞台セットは劇団らしくしっかり作り込む。上手側に和室、二階を設え上り下りの動作に躍動感を持たせる工夫。下手側は黒板塀と出入り口。和室には「差し向かう心は清き水鏡」の横軸。場面に応じて和室が池田屋になったり新選組の屯所だった八木邸を思わせる。先に舞台技術にも触れておくが、幾何学的模様を描く照明(何となく落ち葉の重なり合い)が、表現し難い心の在り様に代わって照らしているようだ。また音響は重厚とポップな音楽を場面ごとに使い分け、場面の演出効果を高める。

    説明から、某出版社に入社した新人女子社員が一冊の本に目を通していた。それはその出版社によるベストセラー・新選組本である。内容は新選組隊士たちが抱える苦闘と知られざる日常を章立てに描いた短編。新選組のことに全く無知な新人女子は、ページをめくりその世界へ...。新選組の日常を描く短編と新選組歴女たちの溺愛妄想が爆発するオムニバス舞台。
    現代から幕末を回想というか夢想_新選組が時代の奔流に立ち向かった状況を、隊士の日常を通して人間臭く描く。描く人間も新選組でも有名な近藤局長、土方副長、沖田、永倉、藤堂などの各隊長だけでなく、無名の平隊士の言葉をもって紡ぐ。

    一方、現代の出版業界の変容_本が紙媒体から電子媒体へという変化の中、紙の感触やページを前後させることで時代の流れを感じる、憂いにも近い描き。同時に先の新選組本の編集に携わった編集者(現幹部)の諦念⇒定年後の心配をする現実感を皮肉、ユーモアをもって語る。大政奉還後の新選組隊士の生き方と出版者の幹部連の行く末に重ね合わせる。
    公演の魅力は、先に挙げた有名人物だけではなく、むしろ歴女が好意を示した平隊士の視点というユニークさ。多くの人物が出会い交流し、それぞれが幕府に忠義を尽くす。この一点に収斂する。一方、現代では燃え尽き症候群のように怠惰な状態を対比する。新選組に興味もなかった新人女性がその歴史の面白さにハマる、その状況や立場等の違いを書の章立てーオムニバス的に描く構成の巧みさ。

    群像劇であるが、1人ひとりの人物像がしっかり描かれ、脚本は現在への時間続き(経過)の中で物語を過去・現在を巧みに繋ぐようなシンボライズの上手さが真骨頂。演出はアップテンポ、軽妙洒脱なシーンとシリアスなシーンを描き分け、物語に緩急と硬軟を巧みに組み合わせ、観客の意識を刺激し続ける。
    物語の底流には、人の優しさ温かさを感じさせる。そんな時代を超えた人間賛歌…見事でした。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2020/11/29 12:46

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