生き辛さを抱える全ての人達へ 公演情報 HIGHcolors「生き辛さを抱える全ての人達へ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「『人の葛藤』をテーマにした三作。 この三作を見終わった帰り際、よしもう1日生きてみるかと思って頂ければ幸いです。」…という謳い文句通り、生きる”力”を感じさせる好公演。
    2人芝居「隣人のおっちゃんと、」1人芝居「負組」朗読劇「45歳の青春」という構成で、すべての作品が熱演、力演といった感じで、まさに”生きる”を力強く訴える。簡素な舞台(セット)に人生の断面を切り取り、生きる辛さを抱える人々を優しく包み込むような公演、自分は好きである。
    (上演時間1時間50分 途中の舞台転換等を含む)

    ネタバレBOX

    第1話「隣人のおっちゃんと、」
    セットはドア(衝立)があるだけ。その前に隣人のおっちゃんが座り込んでいる。部屋に入りたい女性(34歳)との押し問答。妻の帰りを待つおっちゃんと女性(独身、彼氏なし)の同心円状を描く会話の繰り返し。何となく同心円の軸が微妙にずれ、いつの間にかおっちゃんの心情を理解しようとするが…。おっちゃんは自分の部屋と勘違いし、妻の帰りを待つというが、すでに妻は亡くなっている。が、数分後には妻を待っていると言い張る。妻の後を追って死にたいと言っているが、それを聞いている女性は逆に”生きたい”を強調する。死・生がコインの裏・表とすれば、それを宙に投げた結果は運任せだが、生死は自分の意思で決められる。そんな恐怖(死)と現実(生)の精神構造をコミカルに具象化した力作。これは絶対に劇場という空間で観るべき作品だと思う。

    第2話「負け組」
    セットは、第1話のドア(衝立)を裏返し、今度は室内を思わせる。座卓のようなテーブルとその上にあるパソコン。
    生活保護を打ち切られ、途方に暮れた男がコンビニで働くために電話を掛けている、その電話口への激白。サッカーワールドカップ(ベルギー×日本)の中継を通し、試合の状況を自分の生活に準えて、刻々と電話口に語り掛ける。生活を”守り=弱者”社会状況の荒波を”攻撃=強者”と見立て、試合の一進一退の攻防と自分の生活実況を中継という客観的な新視点と角度をもって描いた斬新作。
    会話の中に何故、生活保護が打ち切られたのか、その原因をおばあちゃんとの触れ合い-カーネーションの思い出話をエモーショナル的に挿入し、一服の清涼剤的効果を持たせるあたりが巧みだ。

    第3話「朗読劇~45歳の青春」
    セットは、真ん中に仕切りのようなドア、挟んで両側に応接用ソファ。そこに上手側に45歳元女優(=女)、下手側には元夫(=男)が座り朗読が始まる。女の20年後、老後を考えた時の恐怖・不安・焦燥等を、ある女性に宛てた手紙という形の回想劇仕立て?
    物語は5年前に離婚した夫と、東京・青山の高級レストランで偶然再会した。元夫は再婚し幸せな結婚生活を…女は内心、穏やかではない心を平静に保ちつつ、自分たちの夫婦観、それから振出しに戻るように恋愛観、男女関係を話すうちに、次々に男と女の心情の違いが鮮明になる。
    青山のレストランという解放空間にありながら、濃密で張り詰めた密室劇の雰囲気が漂い出す。女の迷心理、愛に燃える情念、それらを精緻で優雅な口調で語る。ある種の格調高さを感じさせる。最後にレストラン内にも関わらず大声で「ガンバレ ガンバレ-女」…自分自身への応援歌のようなメッセージが印象的な作品。

    三作の共通はドア。ドアを隔てて室内・室外がある。居る場所を「立場」や「状況」に置き換えて、どこにいても生きている。今、コロナ禍にあって「生き辛さを抱える全ての人達へ」というタイトルは、そんな状況下にあっても一生懸命に生きる人々へのメッセージ…そんな思いが強く伝わる公演だった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2020/11/22 20:28

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