JACROW#29「闇の将軍」シリーズ第3弾 公演情報 JACROW「JACROW#29「闇の将軍」シリーズ第3弾」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    JACROW、以前どこかで観た気がしていたが、中村氏演出舞台を見たのみで自作舞台は初めてであった。
    劇団固有の世界というのはやはりある。演劇の成立の仕方というのは様々で、現実世界の一角で、現実世界に帰属する生身の体が架空の世界を「作る」仕事、この要は俳優の仕事となるが、この芝居では田中角栄という実在人物(わが子ども時代「ま~しょの~」の物真似で超有名人であった)の存在のさせ方が独自であった。他にも娘真紀子、山東昭子、中曽根、大平、福田、小沢、金丸と1970年代後半~80年代半ばの政界人オールスターが(パロディでなく)史実を演じるべく、しかし形態模写もまじえて登場する。その模写が興醒めとならず激動の政界ドラマを加速させる。一見物真似的にみえる表現がリアリズムな演技と不思議に共存するのだ。
    記憶に残る竹下元首相の「あ~せ~こ~せ~と言ってたら創生会ができた」等と超つまんね~コメント(自分で作っておきながら自分に責任はないかのような表現と周囲のにやけ笑いに子供ながらに白けた記憶が)、またその後経世会で「御大田中角栄と離反」なんて報道も朧げに覚えている塩梅なので、耳馴染みのある人物のドラマを楽しく見た面はある。が、それでけではないと思う。
    自分の言葉を語らず都合の悪い質問にふて腐れ、ふてぶてしく会見を打ち切り、又制限し、小煩い記者をターゲットにし出禁へと誘導したり(これしきで動揺する記者クラブの方が亜然であるが...)、のらりくらり逃げを打つしか能無しの菅首相(さすが安倍の政治私物化をサポートした手腕、というか単に貧層な哲学を発揮)を見て嘆息ばかりつくこの頃だから、余計に田中角栄という人物が対照的に存在感を持つ。人の心を動かす言葉を探り、人を説得し続ける政治家像に、政治の「あるべき」原点をみる思いがするんである。
    ドラマの葛藤は、「田中派(党内多数派=決定権を握る)からは絶対に首相を出さない」とするこの頑固親父(角栄)が中曽根康弘(風見鶏と竹下派に言われた)を推して二期目の首相に就任した事態に至って、若手(60前後)竹下登を押す金丸・小沢を筆頭とする分派がついに創生会~経世会の既成事実化によって派閥乗っ取りを仕掛ける部分である。
    (会は表向き政策勉強会であるが派閥政治の常套で「次の主流派に乗り遅れるな」という平議員の心理に働きかける。小池都知事がぶち上げたあの「希望の党」に民進党議員がうかうかと参集したのを想起せよ・・その後小池はハシゴを外した完全な「罠」。政策論争での選挙戦を「させなかった」のが小池現都知事である事を忘る勿れ。)

    その角栄は数年来彼を疑獄に陥れたロッキードの案件では刑事被告人となっている。人気はあるが首相にはなれない。でもって、長い裁判の結果、有罪判決を下される。この事も要素となり政界での力を失う動きとなっていく。
    史実を辿ったドラマだが、角栄の人物形象が優れている。(上に述べたが)通常省略される「物真似」をしながらの演技は、しかしこの人物像の場合抜かせなかったかも知れない。演説の調子、田中派の側近議員らを労う言葉、気遣い等一々気が利いており、「愛らしい」親父像であるが、特に演説は、高度成長期のスタンダードであるインフラ整備、地元企業への利益誘導が「地元の利益=全体の利益」である時代、たとえ方便であっても魅力的である。そこには貧しさへの共感と思いやり、不平等の是正という公共理念が流れているからだ。
    何よりこの人物は、この数年極まった「説明しない」「理念、目標のない単なる政権維持のための政治」「不都合を排除する(公文書さえ廃棄、改竄する)」など日本のレベルの低さの無惨な露呈を痛ましく思う心に、一つのオルタナティブを示し、力強く溜飲を下げる。現実(史実)に連なるこの舞台はその数十年先である現在に連なり、劇場の中に完結して終わらず人物らの思いがチリチリと火が燻るように鳴っているようである。

    0

    2020/11/07 04:45

    2

    0

このページのQRコードです。

拡大