満足度★★★★
稲荷卓央+藤井由紀+福本雄樹、大鶴美仁音、全原徳和、久保井研。主要役以外も皆振り切った演技。ポール・ギャリコの同名小説があったな、と劇中の「本」を巡るくだりで思い出したようなあんばい。それにしても奇妙な人物共(あるいは猫)が作り出すシュールな場面のシュールさは筆舌に何とかで。狂気とも言おうか。
風が運び頬をかすめた言葉に人の姿を与え、そうして生まれた幻と戯れる女、彼女を慕い見つめる男・・藤井由紀演じるジェニーを挟んで接点を持つ稲荷(科学者チクロ)と福本(ピタ郎=ピーター)は交わらない。果たしてどちらが彼女と「現実」で交わっているのか・・(常識的には稲荷が現実なのだが)、というようなふわっとした感覚が全編途切れなく覆っているのが今作の特徴だろうか。
脇役の筆頭は、幻想の世界を確定する久保井演じる「人工舌を持つ男」(ベロンと垂らしては自分で巻き取る、を何度もやる)ベロ丸、全原演じる「意味のない事しかしない男」(だったか..?)金四郎、「現実」を仄めかす存在として大鶴演じる女、食品監視員3人組。心地よい物語空間が、端っこに空がのぞくテントの中でガチャガチャと繰り広げられる玩具箱のような観劇がまた体験できて嬉しい。