満足度★★★★
鑑賞日2020/10/15 (木) 19:00
はっきり言って、予備知識がないとちょっと戸惑う作品だ。
タイトルが「狂人日記」なので、主人公の一人称がそのまま日記の形態をとっていると思わざるをえないのだけれど、場面の変遷を想定した舞台上は、テーブルと椅子しかない。
だから、彼がどの段階から狂人なのか、今どこにいるかからも想像ができず(まあ、間違いなく、犬のラブレターのやりとりくらいからは、おかしいと思うのだけれど)、割と序盤は気を遣う。
ただ、そこを抜けると、1時間力感溢れる松田崇ワールドに巻き込まれる。ポプリーシチンは、自らの解放のためにただただひたむきに己の人生を邁進する。たまに疑心暗鬼と屈辱にまみえることがあっても、彼は決して挫けることはない。ましてや松田氏の演技は、観客の懐疑や不信を次々に打ち消していく。ただ、物語の不安な縦糸はそのままに。
主人公が、終盤自らをスペイン国王と思い込んで、精神病院へ入れられる過程の悲惨さと、
最期に自らを犬だと信じ、舞台から飛び出していく姿の自由さは、共にうら悲しくもあり、また解放感を湛えてもおり、力強い演出(演者=演出家なのだが、これらの場面では演出家の視点が勝ったという意味)が光った。
1回上演というのはもったいない。
ただ1つ言わせてもらうと、やはり小道具は小道具だ。登場時には何の主張もなかった衣装が、話の進展とともに、驚くほどポプリーシチンの心情と境遇を表すまでに巧妙に設定されていたのに対し、やはりペットボトルとi-phoneはどうだろう。