脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。 公演情報 オフィス上の空「脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    初キ上の空論。

    ネタバレBOX

    コロナが作家にもたらす影響をふと考えた。このユニットに寄せていた想像(勝手な、だが)と、今回の舞台との違いを見て、何かを探ろうと見始める自分がおり、「小屋がトラムだからかな」と考えが先走っている。達者な役者が物語を語り始め(百花亜季)、彼女自身を謎に括ったまま「こっち向け」とばかり、「現実世界」の二人の出会いの場面へ誘導される。一方思考は(勝手な)「想像」を裏切る様をあげつらう、例えば安定感の有馬自由氏だったり小沢道成をベタに生かす役の登場だったり。「多数の観客を味方につける」舞台の様相を「今まで本当にこういうドラマやってたのか」と疑わしげに見、本舞台はメタモルフォーゼか番外編かと批評家面の斜め目線を注ぎつつ、照れくさい恋愛話に既に乗っかっている。
    肉付けを削げばさして変哲もない、というのも何だがただ惹かれ合った男女が「ただ惹かれ合った」というだけの関係を正当化するまでにあれこれと時間を費やす(現代らしいといえば現代的な)恋愛譚であるが、恋愛を「よきもの」でなく「生物の生態」として描くのを好む私がうっかり、主役達の恋を応援する体勢をのっけで取らされてしまった。

    人物らは「異色」揃い。何かとカテゴライズされる者とカテゴライズされなくとも濃淡様々なグラデーションを示す個性が配される。恋愛の方は別カテゴリー同士が正体を知って引き合う(「引く」は今時の用法)という問題設定だが、基本「異質」とその理解者しか出てこない(理解の度合いに大小あるが)。また欲を言えば主人公の「扮装」は2パターン欲しかったが(あまり関係ないか..)、現代「らしさ」を役者の演技のディテイルで彷彿させる貢献あって「いい感じ」の空気感が出来ていた。

    3ヶ月「何もない」二人。ナレーションは「二人は会う度に暗くなっていった」(互いに隠している事があるから」と告げ、物語は動き出す。そこは女の方が「私たち、何もないじゃん」と言い寄る瑞々しいシーンであったが、時間経過後の展開の飽きさせなさは作家の工夫の賜物だろう。ただ冒頭熱情をもって「初恋に落ちた」と吠えた男と、付き合って3か月後にその台詞?と思うが、セックスを忘れる時間を過ごせる二人の関係を想像して「あり得る」と思えるキャラが、後半戦で開陳される二人の実像に重なるのも良い。

    ところで恋愛指南役を買って出る希少種、社会学者宮台氏が、ここ最近よく用いる語「クズ」(人間の部類)が、悲しいかな劣化社会の趨勢を先導する中で、「自分は正常を保てているか」のバロメータは端的に「異質」と向き合えるか、だと思う。
    本作は「異質」をドラマ上の謎として中盤まで引っ張り、その開陳後(人物らに「異質」と遭遇させた後)、関係構築に中々の「現実に即した」時間を使う。ここの時間のかけ方に作者の愚直なこだわりを見るのは安易かも知れぬが、二人の心境と思考の過程は「想像にお任せ」とせず時間経過を台詞によって埋めて行く。真の恋愛の成就を作者は目指したのだろう、とはこれも勝手な想像。
    「普通こうは行かない」夢物語にも見えつつ、気分よく見終えた。やはり周囲の人物各々に魅力があり、欲を言えば脇役達ももっと肉付けられ群像として見えたかったが、役者がよく演じ、あり得るキャラを見せてくれていた。

    ドラマ上気になったのは高校時代に出会って以来主人公(男の方)の心の師であった「先輩」が、「じつは無理していた」との告白は価値観崩壊(なぜならあけっぴろげで何も隠さない生き方に憧れたと主人公は言っている)。現在の主人公の、これに見合う反応があったかどうか・・この場面での主人公を作者はもっといじめて(苦悩させて)良いのでは・・と思う所。
    なお箸の場面はしっかり笑いを取っていた。

    0

    2020/09/25 04:31

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大