原作者は1921年、旧ポーランド領ルヴフ生まれのSF作家、スタニスワフ・レム。2006年に亡くなったが元々、医学を学んだ人である。在学中から雑誌に詩・小説を発表その壮大で現実的なSFは映画化もされてきた。「砂の惑星」「ソラリス」など。原作はSFという形を採った実存的作品であり、「虚数」は、何より人間存在そのものの意味の問い掛けのみならずその曖昧性を提示して見せる作品と言ってよかろう。 ヨーロッパ近代への哲学的道を開いたと同時にデュアリズムの弊害をも齎したデカルトの有名なCogito ergo sum.が語られるがこれは無論、Je pence donc je suis.のラテン語訳である。無論、哲学者と詩人という差やこの事象を如何に解釈し己の人生の根底とするかについて選択の差はあるが、Rimbaud流に示すならば、Je est un autre.である。天才同士の哲学的な差や生き方そのものの根底的な選択以前に、無論外国人がこんな動詞変化をやらかしたならば端的に間違いと見做され即却下。だが、詩人として天才と見做されるRimbaudの書いたことであれば、当然全く別の解釈が為されそちらが正しい。 ポーランドとは言っても現在ではウクライナ領になっているルヴフ生まれだから、単純にアイデンティティーが形成されたとは思えない。SF作家として大成したのも、このジャンルを選んで作品を発表したのも誰にも指弾できない未来の話で自由に己を主張できたからであろう。そういう意味でも実存的なのだ。