社会の柱 公演情報 新国立劇場演劇研修所「社会の柱」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    鑑賞日2020/02/23 (日) 14:00

    座席RB列31番

     まずは「社会の柱」というイプセン作品を舞台で観られたことには感謝したい。
    イプセン作品の上演に特化したシリーズか、あるいはこうした研究生公演のような、実験的・メモリアル的な舞台でしか上演されることはないであろうから。
    研修生の皆さんの演技について言うと、主人公の13期生宮崎隼人によるカルステン役の頑張りは認める。しかし実際の舞台は、その敵対者、同調者たる周辺の人々を、ヨーハン役の河野賢治を除き、すべて修了生が演じることで舞台が安定するといった結果になった。主人公の懊悩や欺瞞が席巻して物語が進むのではなく、周囲の演技によって、主人公の性格や言動が増幅され、彼がこれから犯すであろう過ちの恐ろしさが際立っていく展開だ。要は、主人公役と周辺の役柄との技量の差が、如実になっているということ。ヨーハン役の河野賢治の、ルステンに対する抗いや怒りの熱量も決して高くはない。
    古川龍太、原一登ら商人の驕り、椎名一浩の偽善、小比類巻諒介の狼狽、野坂弘の抵抗、それらがルステンに人間としての血肉を供給している。
    13期では、大久保眞希演じるローナ、姉さん肌の気風の良さは、賞賛もの。彼女の語る過去、未来そして現在は、周りの空気をしばしば躍動させる。

    ネタバレBOX

    の舞台、ラスト近くまで予見される大惨事が観客をハラハラさせる。自分の過去の罪を隠ぺいするために、ルステンは旧友の死を図り、それに巻き込まれるように養女と実子の命が奪われようとする。そして何よりも恐ろしいのは、ルステンの目論見の結果、もたらされるであろう船の転覆による多くの乗船者の死。結局、この大惨事は幾つかの幸運を前に、ルステンの改心をもって回避されるのだが。
    イプセンならば、そうした悲惨な結果を受け入れるのかと思ったけれど、そうではなかった。そんなことでは、ただただ主人公は嘆き悲しむしかないではないか。彼は、ルステンの改心をもって、その先に訪れるかもしれないベルニック家の没落と家族の苦しみを暗示させたかったのかもしれないと思った。彼はけしてモラルに耽溺するような作家ではないから。

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    2020/03/05 18:18

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