満足度★★★★
痛恨の中止発表が相次ぐ中、どうかこれだけは・・と祈る気持ちで当日を待った公演。
9年前の初演(もう9年!)は、せわしない日々に紛れて見のがした。震災の起きた年。初演をプロデュースした元・世田谷パブリックの矢作氏(現・穂の国とよはし芸術劇場)がパンフで上演までの紆余曲折を記しており、舞台が被災地福島である事と「事故」にまつわる物語である事とで、上演見送りの声もあったらしいが、演出・青木豪氏の押しで(具体的な地名を止める等して)上演が実現したという。
つまり作品自体は震災を踏まえて作られたものではない。にも拘らず会場に入るや高みから見下ろす舞台装置のシルエット、そして流れているノイズから2011年当時に引き戻される感覚に襲われた。混沌の状況で現在地を探していた、と今は思い出すあの混沌を思い出させる雑音。初演時に用いた音源使用なら合点だし新たに作ったとしても納得する。
夜行バスというプライベートかつ公共空間で人がたまたま居合わせ、そこでの出会いもあった3組の「それまで」と「それから」を点描し、全体を構成する本作は、人の言動のディテールに人の心を発見し、その接触と変化にハッとさせられる、桑原女史らしい上質な劇であった。