ねじまき鳥クロニクル【公演中止(2/28 (金) ~3/15(日))】 公演情報 ホリプロ「ねじまき鳥クロニクル【公演中止(2/28 (金) ~3/15(日))】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    村上春樹は自分の作品は、小説であって、ほかのメディアの素材ではないと思っているにちがいない。ことに国内メディア(映画、テレビ、劇画化など)に任せると、国内向けにローカル化、歪曲化されるという不信感があってか、なかなか原作を提供しない。
    国際的な制作環境で幾つかの映画・テレビ作品があるが、母国読者から見れば、エエッツという出来が多い。昨年は「納屋を焼く」(映画タイトル「バーニング」)が韓国で作られた(これは日本資本)が、ずいぶん違和感があった。世界的なベストセラーなのに成功しない。
    そこが、ミステリのベストセラー原作と違うところだ。
    しかし、演劇は、観客が日本にいる以上ここでやるしかない。口説き落として(だと思う)実現した「海辺のカフカ」(演出・蜷川幸雄)は日本の演劇界としては万全の布陣で制作(ホリプロ)、蜷川らしいケレンミ味のある大劇場向け演出も功を奏してヒットした。しかし、ここでも脚本はアメリカのフランク・ギャラティ脚色。昨年の「神の子どもたちはみな踊る」も同じギャラティ。原作を生かした脚色だった。演出は倉持功。
    今回は座組が変わって、演出/振付/美術:インバル・ピント 脚本/演出:アミール・クリガー 脚本/演出:藤田貴大というクレジット。
    原作を生かした脚色というのは変わらないが、今までとはかなり違う公演になった。地の文そのままではないが、それを生かした長い独白、セリフが多いのは、時間のねじを巻いて過去の物語を遍歴するという小説の仕組み(そこは「神の子どもたちはみな踊る」と似ている)を継承しているが、舞台ではコンテンポラリーダンスや音楽、舞台美術を大きく取り入れている。四角い箱と、ホリゾントに抜ける長方形の壁に囲まれたいい色彩の空間がベースになった舞台に、さまざまな場所から登場人物が現れる。幕開きから歌があるように、終始、リズム系を主体にした音楽が上手で演奏されている。随所に歌はあるが、かと言ってミュージカルではない。前衛劇のような趣向なのだが、曲芸的な見世物にもなっていて飽きない。
    ドラマ的には主役の岡田亨〈成河・なかなかいい〉と隣に住む高校生が庭の古井戸の中に見るさまざまのシーンが展開する。岡田の妻久美子(門脇麦)の失踪の謎を解く、ということが物語の軸になっていて、時間は過去へとねじまかれていく。それは、個人と歴史の混在する一種の現実性のない抽象的な世界だ。ここで効果を上げているのは、人間の肉体の一部だけを見せるというダンスカンパニーの踊りの演出と踊り手の技術である。
    この舞台、原作読者の気にいるかどうかは別にして、新鮮な面白い舞台作品としては楽しめた。だが、客の入りはどうだろう。カフカほどの大衆性はない。いまは満席だが、寝ている客も多い。
    たまたま、この舞台、16列ながら劇場中央の席で見た。この公演では、正面から見て効果があるシーンが多く得をした気分、左右の席の方には気の毒な気もした。この際だから言ってしまうと、日本の大劇場では席の料金にもっと高低差をつけてもいいのではないか。ほとんどの劇場で最高の値段の席がそれに値しない席に対して売られている。ついでに言えば、一階に二等席がある歌舞伎座は、、やはり老舗だけに興業のツボを知っていると感心する。


    0

    2020/02/14 12:05

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大