満足度★★★★
風呂敷を広げすぎた感のある舞台であった。
現代のアイヌ差別を理由に町長刺殺を図った事件を入り口に、16世紀ごろからの和人との積年の対立、そこでの和人の搾取、アイヌ側の対応、部族内の対立などを、殺陣とレビューを交えて(流山児風に、といった方がいいかもしれない)2時間の中に織り込んでいる。 辺境部族に対する近代国家の対応はどこでも似たようなもので、アメリカの原住民対策、ソ連の中東対策、ナチスドイツの中欧政策、中国の万里の長城と、今となっては消し去りたい差別と抑圧の歴史をどの国も持っている。日本は島国だし、ちょうどいいサイズだったということもあって、辺境問題がクローズアップされることは少ないが、これからはもっと多角的に民族問題は考えなければならなくなるだろう。この物語は歴史をたどっていて、アイヌ問題の大雑把な経過はわかったとしても、具体的な現在のアイヌ対策には精神論以上には触れていない。
それよりも、これから起きてくるのは、枠に振られたように、この問題が、社会不満分子のネタにされてしまう、ということがある。アイヌを語らって町長刺殺を試みる青年(田島亮)とアイヌの血をひく取り調べ警官(杉木隆幸)との対立(共に好演)は現代社会の大きなテーマを含んでいる。ここだけを絞ってドラマにしてもよかったのに、と思った。しかし、ここで、話を広げて、神戸の新聞記者無差別殺人まで取り込んでしまうと、問題の一端はそこにあるとしても、結論を急ぎすぎてドラマで訴える力が弱くなっていることも否めない。
詩森ろばとしては、制作側の「エンタティメント」という話に乗ったのかもしれないが、これはそういう素材ではないだろう。これでは戦後、「イヨマンテの夜」が素人のど自慢でしきりに歌われた以上の問題提起になっているとは思えなかった。