少女仮面 公演情報 トライストーン・エンタテイメント「少女仮面」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    若村麻由美がとにかくすごかった。真っ白な羽根飾りを背負った宝塚男役スターにして、「嵐が丘」のヒースクリフという愛の亡霊であり、ファンたちの夢にすべてを奪われた肉体の乞食。その上、「男」を装いながら「女」の性に縛られ、満州の満鉄病院で生理の血を流し、怪物・甘粕大尉と出会った歴史的存在。論理を超えた情念と怨念を全身から撒き散らす、鬼気迫る演技だった。

    戯曲は有名で読んでいたが、舞台を見たのは初めてだった。なので、ほかの舞台との比較はできないが、70年代の伝説を作った頃と違って、客席の反応がクールなのは仕方がないだろう。前半のタップダンスや歌やギャグで、もっと拍手や歓声で盛り上がってもいいのだけれど。でも、水道男が「(喉がこんなに乾くのは)焼け跡とぎらつく太陽のせい」と言って以降、若村演じる春日野が旧満州へと飛躍するクライマックスは、舞台に釘付けにさせられた。終演後のカーテンコールの拍手は非常に盛大だった。アフタートークがあるので、カテコは二回だったけれど。

    若村麻由美の話すセリフがによって、その場にない満州がぱっと立ち上がってくる。唐十郎の言葉の詩的イメージ喚起力をまざまざと感じることができた。

    ネタバレBOX

    途中の腹話術師のエピソードはどういう意味があるか。腹話術師の妻が、堕胎が原因で狂気に落ち込んでいく話が、春日野が生理の血と満州の「血」が結びついて別世界に入っていく展開と重なるのだろうか。

    公演パンフにある扇田昭彦の文章では、腹話術師が人形に声を奪われる関係が、春日野がファンに肉体を奪われる関係に重なると書いてあった。たしかにそれも一つの解釈。ただし、ファンは結局、春日野から「幻」をもらただけで、肉体など奪っていなかったというラストになる。その点では腹話術師の話とは重ならないズレがある。一義的な解釈にハマりきらないズレと猥雑さが、この戯曲の生命力であろう。

    さらに公演パンフを読んでいると、木崎ゆりあ(貝)が、腹話術師と人形は、春日野と貝の関係に近いものを感じたと言っている。武谷公雄も、春日野が貝に稽古をつけていたのに、逆に「へへへ」という貝の笑いで役を奪われ、逆に支配される瞬間に注目していた。なるほど、こちらの解釈の方がよくわかる。もちろん、扇田昭彦の解釈や私の思いつきも包み込むところが、唐十郎の戯曲の奥深さである。

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    2020/02/03 23:54

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