満足度★★★★
若村麻由美がとにかくすごかった。真っ白な羽根飾りを背負った宝塚男役スターにして、「嵐が丘」のヒースクリフという愛の亡霊であり、ファンたちの夢にすべてを奪われた肉体の乞食。その上、「男」を装いながら「女」の性に縛られ、満州の満鉄病院で生理の血を流し、怪物・甘粕大尉と出会った歴史的存在。論理を超えた情念と怨念を全身から撒き散らす、鬼気迫る演技だった。
戯曲は有名で読んでいたが、舞台を見たのは初めてだった。なので、ほかの舞台との比較はできないが、70年代の伝説を作った頃と違って、客席の反応がクールなのは仕方がないだろう。前半のタップダンスや歌やギャグで、もっと拍手や歓声で盛り上がってもいいのだけれど。でも、水道男が「(喉がこんなに乾くのは)焼け跡とぎらつく太陽のせい」と言って以降、若村演じる春日野が旧満州へと飛躍するクライマックスは、舞台に釘付けにさせられた。終演後のカーテンコールの拍手は非常に盛大だった。アフタートークがあるので、カテコは二回だったけれど。
若村麻由美の話すセリフがによって、その場にない満州がぱっと立ち上がってくる。唐十郎の言葉の詩的イメージ喚起力をまざまざと感じることができた。