鳰の海 公演情報 劇団TRY-R「鳰の海」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     どんな物語か短く言うと、伊賀の里の伝承として、鳰の海の央に在ると伝えられた“沖の白石”と呼ばれる岩礁を発見した者は太平の世を戦乱の世に変えることができるとの言い伝えを巡る物語と言えようか。(華4つ☆)

    ネタバレBOX

    但し鳰の海が何を指すか定かではないし、実際に存在するのか否かも定かではない。基本的に5W1Hは一切分からない所から始まる。登場するのは、現にも夢にもあらぬ場所でアショカ王に仕える者ら、「奥の細道」の旅路の松尾芭蕉に供の曾良、安土城を建てた頃の信長とその親族として登場する信勝ら。後代魔王などとも評されることになる信長の新し物好き・短気という気性、天下布武に対する念と覚悟、無論その天才性などもキチンと示されると同時に極めて特異な城であった安土城がなぜ、琵琶湖畔に築城され、その目的は何だったのか? 通常の解釈とは全く異なる今作独自の解釈になっている点もグー。また、北を目指す思想は中国の思想でも儒教ではなく、道教だという点をベースにしているであろうことも面白い。
     芭蕉がわざと間違った振りをして口に出すのは杜甫の「春望」、国破山河在 城春草木深 感時花濺涙 恨別鳥驚心 烽火連三月 家書抵萬金 白頭掻更短 渾欲不勝簪。に無論、芭蕉の生まれ故郷、伊賀の里を信長によって滅ぼされ、自らは老いた身で流浪する流謫の惨めを示唆すると同時に、日本の和歌などの伝統のみならず、漢詩にも素養のあった江戸期文化人の素養の質も示しているであろう。江戸期のみならず明治時代の文豪などの漢文力が頗る高かったことはよく知られている。当然のことだが、往時漢文の素読は勉強の基本中の基本であったから金のある町人や、村方・町方三役、武士は無論のこと、教養ある男子は漢文に長じていたのである。         
     一方、俗説で芭蕉が忍びであったという説を巧みに利用し、壊滅的打撃を被った伊賀の忍びが再度活躍できる時代を作る為に、曾良と別れた後芭蕉が、伊賀上人・百地三太夫の末裔としてその術の総てを尽くし沖の白石発見に挑む姿は見せ場の一つ、また芭蕉の忍者説程人口に膾炙してはいないものの、実際に忍びの為の旅であったなら、若い曾良が忍びで芭蕉は、そのカモフラージュに使われた、と解釈する説もあるとのことだからリアリティーとしては後者を取りたい。が、忍者説自体仮に本当だったとしても、秘密を明かさないのが忍びである以上、詮索に余り意味はあるまい。寧ろ、ところどころ、おちゃらけに芭蕉の句に間違いを意識的に仕込みながら、ちゃんとした教養の質を示し続け、信長の進取の気性と賢さ、海外に迄目を配る先見性などとも照応させ、知的レベルを下げずに話を進めていることを評価したい。
     さて、少し鳰の海についても解説しておこう。現実に存在しているのは琵琶湖であるが、鳰という漢字を分解してみると、“入”と“鳥”に分かれる。これは人が鳥のように飛ぶことを表していると解釈する。安土城の天守の真北に琵琶湖の丁度真ん中はある。道教の関係があるのであろうこの北信仰に絡んでか、精神世界が入り込む。仏教の六道輪廻や仏道の説話、仏も絡み、時空を超えるか、或は量子力学的な古典物理学とは異なる重なり合う世界のイマージュ(シュレジンガーの猫)に近い琵琶湖が鳰の海に変じる方途があるとされる。一つが先に挙げた北方に向け、鳥として真ん中に行き、沖の白石に辿り着く方法、もう一つが百地三太夫の採った北方へ潜ってど真ん中へ辿り着く方法である。二人は各々の方法で沖の白石を発見するが。伊賀の伝説はあくまで伝説であり、答えは普遍的なものであった。ところで曾良は、どのように空を飛んだのか? 信長が協力してくれたのである。安土城の天守閣には、ダヴィンチの考案した飛行用の鳥が置いてあったのだ。曾良は一足遅れたものの、師匠の発見した沖の白石を発見し、伝説の意味する所を解き明かした所で幕。
     照明、音響、衣装もグー。脚本も面白いが、作演も役者も基本的に若いので、脚本に書かれていることの身体化については、もう少し勉強する必要がありそうだ。殺陣が様式化しているのは悪いことではない。メインは脚本にやや重点を置いているだろうからだ。スモークの焚き方、タイミングも良かったし芭蕉が沖の白石発見時の戦争シーンも音響、照明共に効果的であり赤布も効果的に使われていた。

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    2020/02/03 01:15

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