満足度★★★★★
東北の冬は寒い。痛々しいほど、雪が積もる。白化粧などと甘美なことを言ってられないほど、のしかかる。
津軽海峡を隔てた北海道の冬は観光だ。その結晶が、商いの恵みとなり、栄えさせる。
北海道の地名の由来となったのは松浦武四郎という人物だそう。最終的には官僚に委ねられたものの、候補は5つあったらしい。
「日高見(ひたかみ)道」、「北加伊(ほっかい)道」、「海北道」、「海島道」、「東北道」、「千島道」。このうちの「北加伊道」が「北海道」に転じたとされるのが有力な説だ。音読みの「カイ」はアイヌ語であった。ともすると私たちは「北の海に位置する道」というふうに解釈してしまいがちだが、実相は、その土地のアイデンティティに寄り添っている。
翻って東北は どうか。列島の真ん中たる「近畿」から測って東の北に伸びている、という意味しかない。そこに差別の構造をみてとれるのである。
さて、本作は東北の海岸線沿いにある都市を舞台にしている、と思っている。現代劇でありながら、その作法や言葉遣いは格式高い。「東北」の形のごどく背筋を伸ばして観劇しなければ およそ適当ではないと思わせる風格である。
あらすじは以下の通り。一見さんお断りを代々守ってきた旅館の、「負債」を巡るトラブルから物語は始まる。 取り立てに来たのは任侠。この、応対しなければならない側の女将の矜持であるとか、敬語の使い方というのは昭和そのものであった。いや、バブルに浮かれていた時期もあったので、大正と呼んでも合点がいくだろう。
濃密な人間ドラマは省くとして、この劇団からは否応しに「土の香り」がする。悲しくも国民民主党の面々にはない。その土地に暮らし、生きてきた「軌跡」みたいなものが、現実として漂っているのである。
小劇場であるにもかかわらず、セットの早替えは賞賛するに値する。実のところ小料理屋の女主人の負けん気一辺倒な様子は やや誇張されようにみえた。だがしかし、それを差し置いても肉厚な作品だった。