第一回実験室公演「温室の前」 公演情報 スカレッティーナ演劇研究所「第一回実験室公演「温室の前」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/12/19 (木) 19:30

     2019.12.19㈭ PM19:30 東中野RAFT

     鈍色の空が広がる、師走の中野坂上を東中野RAFT へスカレッティーナ演劇研究所 第一回実験室公演『温室の前』を観に足を運んだ。

     スカレッティーナ演劇研究所は、今年3月に解散したアクト青山主宰の小西優司さんが、4月に新しく立ち上げた劇団月とスカレッタと共に、レッスン機関として立ち上げた演技研究所。

     今回の『温室の前』には、そのスカレッティーナ演劇研究所の第一回実験室公演。

     なぜ、実験室公演なのかは、この舞台を観れば朧気ながら解るだろう。

     岸田國士の戯曲『温室の前』を、ABCDの4チーム、西原役の小西優司さんとABチームの貢役の高村賢さん、CDチームの貢ぐ役の佐古達哉以外、全チーム違う役者が演じ、全チーム同じ動き、同じ解釈、同じ狙いで構成されており、兎に角『同じ』になるように創られていることと、演出が今まで観た事のない演出であること、足捌き、手の使い方、台詞の抑揚までも『同じ』になるように、役者に強制し、矯正した舞台で、どのような差、役者の個性が滲み出し、観客がどのように違いを感じ、受け止めるか、どのような感想或いは印象を抱くのかという事を指して実験室公演としたのではないかと、私は受け止めた。

     舞台の真ん中に、背もたれのない一脚の椅子があるだけの空間で紡がれたのは、身寄りのない兄弟が温室のある家でひっそりと暮らしている所へ、古い友人たちが訪れ、暗い生活の中に明るい空気が漂い出したが、その結末は…という物語。

     私が観たのはAチーム。

     大里貢=高村賢
     大里牧子=華奈
     高尾より江=やまなか浩子
     西原敏夫=小西優司

     有り体に言えば、観終わってから4日間、自分の中で反芻しても理解出来ているかと言えば、恐らく半分理解出来ているかどうかと言う心許なさである。

     観終わった後、観た後の今陥っている感覚を言葉にし、文章として綴るのが難しいと思った。理解しきれていないながらも、今まで見た事のない演出であり、舞台でありながら、月並みな言葉にで言えば、とても面白く、ああ、観て良かったという一語に尽きる。

     兎も角も、その時感じたことをそのまま記してみよう。

     先ず感じたのは、声と発語の良さと的確さ。声が聴き取り易いのは勿論だが、劇中、観客に背を向け登場人物たちが語る場面で、表情は一切見えないのに、声の抑揚、トーン、間合いや息遣いで、それぞれの表情や感情、腹の水底に沈めた思いが目の前に確と立ち上る凄さと一音一語が明確にくっきりと発語されるだけでなく、岸田國士の描いた昭和初期の独特の言葉遣いや速度、間合い、息遣い、言葉の発し方が、この戯曲が書かれた当時の人や風景、雰囲気そのままに感じた。

     登場人物についてもメモ的ではあるが、あの夜感じたままを綴ってみる。

     今の時代に照らすと、女が家事をするのが当たり前という考えが言葉に表れる貢は、自分は何もせず妹 牧子に家事を全て任せ、求める、苛立つ男と思われるだろうし、私も、そう感じる場面がいくつかあったが、より江と対している時の高村賢さんの貢は、可愛いと思った。

     確かに、熱血漢で、女性の扱いにも慣れているであろう西原は、カッコイイ。より江でなくとも、現在でも恐らくはそりゃあ西原に心惹かれるという女性が多いと思う。

     けれど、より江に対する不器用さと思いの寄せ方、より江が西原へと魅せられ選んだと知った時の貢の背中には、男の切なさと不器用さと初さが綯(な)い交ぜになって表れていて、抱き締めたくなる男の可愛さが滲み出ていた。

     妹に頼りっきりの兄に、言えに縛り付けられ、自由がないように見える牧子は可哀想に見えるかも知れないけれど、牧子もまた、人と接することが上手くない自分を知っているがゆえに、兄に早く結婚して私は自由になると言いつつ、この温室のある家から出て行く事に不安と心細さを感じているのではないか。
     
     その一方で、兄がより江と上手くゆく事を心から願う、妹としての愛情を華奈さんの牧子に感じた。それ故に、より江が西原に傾いた時、より江に対する腹立たしさを感じ、より江に対して抑えていた不満をくちにしたのではなかったか。また、自らも西原に淡い思いを抱いていたその思いを西原は気づいていつつ、より江と思いを通じた西原へのやるせなさと、兄の友達で、兄のより江への思いを知りつつ、より江と思いを通じた西原の兄への仕打ちに含むところもある牧子もまた、兄へ依存しているのかも知れない。

     貢と牧子は、共依存の関係なのではないだろうか。互のある部分には不満もしくは苛立ちを感じながらも、人とのコミュニケーションが不得手の似たもの同士、故に、互いが抱いた絶望を理解し合えもし、得がたい相手なのかも知れない。

     鏡の中と外のようにシンクロした動きを見せる場面は、そういう心を表したのではいかというのは深読みに過ぎるだろうか。

     より江と西原の見交わす目線で、ああ、この二人は多分、お互いの中に同じ性質を嗅ぎ取ったな、この二人が互いの手を取るだろうと予感させた小西優司さんとやまなか浩子さんの見交わす場面では、より江と西原の心の中で交わす会話が聞こえて来るようだった。

     より江と西原が結びついたことを知った時の貢は、もしや自死するのではないかと内心、胸をざわめかせながら、ラストの数分間息をするのを忘れたように見入った。

     ピンと張り詰めた空気の中、まるでサスペンスを観ているような緊迫感と曰く言い難い切なさと、観終わった後の名状し難い高揚感を感じた舞台だった。

                   文:麻美 雪

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    2019/12/23 13:25

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