満足度★★★★
平田満の出身地の豊橋の地域劇場が制作したユニークな社会ドラマである。脚本・演出はKAKUTAの桑原裕子。出演者は平田のほか、新劇系のいい俳優をそろえて、高年齢時代の現代日本の地方に生きる人々の問題を直視している。
かつて開発の夢があった地方都市。しかし、その夢も消えてショッピングセンターも、開発した住宅地もさびれている地域で起きた大火の一夜、今の社会から零れ落ち、そういう地域を離れられない人々の、夜から翌朝までの物語。優れた社会劇であるのだが、登場人物に「役割」を負わせて問題を提示する今までの社会問題劇とは違う。そこが非常に優れている。
その新開地に隣接した団地に独り住まいしている藍子(井上加奈子)の部屋に、火事を心配した親族や友人がやってくる。藍子の高校の同級生の路子(増子倭文江)その夫の哲夫(平田満)と娘の有季(多田香織)も一緒である。保険会社の社員だったが、中年に心臓バイパス手術をしなければならなかった哲夫は家族の主長の役割は果たせず、娘は失職中。独身と信じていた藍子の団地の部屋では一階上の年金生活者。元高校の英語教師・石川(小林勝也)と、彼の若い同性パートナー(中尾諭助)がともに生活している。
このドラマは、そういう地域で、いま人々が生きている生態を活写している。かつてのような安定した社会関係、家族関係から脱落し、忘れられた荒れ地で生きていかなければならなくなった人々は、そこでも果敢に新しい人間関係を求め社会とつながろうとする。問題は全く解決されていないし、セリフで提示されることもないが、ここで生きている人々の姿は感動的である。
ストレイト・プレイ系統の俳優が健闘。同性のパートナーと暮らす小林勝也がうまい。井上と増子は柄が似て見えるのが損をしている。この中に入ると若者のカップルはさぞ大変だったろうが、作・演出の桑原はよくまとめている。1時間50分休憩なし。
地方の公共劇場は、今それぞれ問題を抱えているようだが、その中で県庁所在地でもない豊橋の劇場が、いじましい地域への媚態もなく、優れた演劇を送り出してくれたことに拍手。今夜のスズナリは超満員だった。