inseparable 変半身(かわりみ)	公演情報 有限会社quinada「inseparable 変半身(かわりみ) 」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「サンプル」の松井周さんが、『コンビニ人間』などで知られる村田
    沙耶香さんとタッグを組んで制作した作品。台湾などで一緒にフィールド
    ワークなどを実施した上での成果だそうです。

    後半はサンプルらしさがにじみつつ、世界や日本を今取り巻いている問題を
    さりげなくぶち込んでいたり、かなりアクチュアルなだなと思いました。
    誰が良い悪いとか、誰が正しい正しくないと言い切れない、余白の多い作品。

    ネタバレBOX

    舞台は日本のどこか架空の島。「海の人」と「陸の人」、いがみ合う2つの
    人たちが住む島は、高品質のゲノムが採取できるということで、ゲノム販売
    業者の下請けやもずくの販売で何とかやっているよう。

    そんな島の伝統的な祭が近づいたある日、2年前に死んだはずの「陸の人」の
    主人公の弟が、なんとゾンビ状態でひょっこり姿をみせる。それをきっかけに、
    島に潜む諸問題が徐々に浮き彫りにされていく…。

    最初、「クニウミ」神話を解説していることから、架空の島=現代日本という
    ことはほぼ明白で、

    扱われる問題も「海の人」と「陸の人」の間の差別、ゲノムを採取するために
    働かされている技能実習生、ゲノム盗掘を防ぐ監視隊に属しているシングルマザーの
    困窮、経済的に衰退し一発逆転的な町おこしを狙う地方、都市の巨大資本に資源を
    まんまと搾取される弱者、LGBT、ゲノムの登場で揺らぐ生命倫理、新旧移民の対立、
    時代や歴史の変化に乗る人と取り残される人の軋轢

    と多岐にわたります。「よくこれ、2時間ちょっとでうまく交通整理できたな」と、
    松井さんの作劇力にビビりました。

    この作品、観客の多くが生き返った弟や、主人公の妻の掲げる「闘い」「解放」に
    共感しそうな気がしたけど、いろいろ背負った主人公の「差し出された選択の
    どっちにもいけなさ」もかなり分かるんだよな…。

    背負うものが多くなってくると、美しく語られる理想も「本当にそんなうまく
    いくのかよ?」とかどうしても感じちゃう。

    最後、生き残る、進化を遂げるためにイルカのゲノムを投与して言語も姿もどんどん
    イルカ化していく人間を見てると、「釣りして」「山菜取って」「普通に生きてる」
    主人公の「何が悪い」という言葉がすごく刺さるんですね。

    最初、「ノーモアゲノム!」とか言ってたのに、イルカのゲノムなんか入れて
    おかしいと思わないか、と難詰する主人公の思いは正しいし、「いや、これで
    よかったんだよ」とか答える弟もそんなんでいいのかよ、と。

    イルカ人間になったとしても、その先の未来が必ずしも明るいわけではないのにそこに
    しがみつく人たちが単純過ぎて、主人公の変わらなさが逆にこの場合正しいのかな、
    と感じてしまいますね。弟を食べ始めるのに、何の躊躇も感じてなさそうだった
    ところに、「人間以外の何か」になってしまったことをまざまざと知ってしまい、
    でもそれってイルカとか他の動物と何が違うんだろう…って首をかしげちゃう。

    イルカ人間たちが主人公に向かって、「未来で待ってるから」って言ってたけど、あの
    ラストも含めて、両者の未来は絶対交錯しないんだろうなぁ。

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    2019/12/15 08:00

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