足がなくて不安 公演情報 たすいち「足がなくて不安」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/12/08 (日) 13:00

    動物好きなら号泣必至の優しさ溢れるエンターテイメント。
    詳細はネタバレBOXにて。

    ネタバレBOX

    ストーリーについては、後で触れるとして、まずは、それ以外の所から。

    とにもかくにもエンタメ性の強い演劇で、見どころ満載。

    ゲームやアニメのOPと見紛うほどのセンス溢れるOP。
    ああいうスタイルで展開するOPはいくつか拝見したことはあるが、センス、クォリティ共に群を抜く。
    あのOPを観れただけで正直、チケット代はお釣りが来るぐらい回収したと思ったほど。
    演劇のOPであんなに鳥肌を立てて興奮したことはない。

    そして、それを実現させた舞台美術と照明。
    まさかあんな仕掛けがセット内に施されていたとは、、、大興奮。

    それもさることながら、個人的に素晴らしい仕事をしたなと思っているのが、あの街灯。
    点灯、消灯、ゆるい点滅と、状況にあわせて稼働するわけだけど、これがまたね、、、とっても良い雰囲気を醸し出してくれるわけで、日常においても、街灯大好きな私としては、街灯の魅力を余すところなく魅せて頂いて本当にありがとうございます!と言う感じ。

    あとはタバコね、タバコ。
    ご時世やら、なんとか法やらで、なかなか喫煙シーンも入れづらい昨今だと思うけれど、個人的にはタバコは絵になるから、ルールに則した中で入れ込んで欲しいのが本音。
    それを見事に入れて頂いて、私はとっても嬉しい。
    あれはもちろんタバコではないんだろうけど、ちゃんと先端が光るようになっているし、紫煙も出るから、見た目にはタバコそのもの。
    それをまたね、実に旨そうにすってくれるわけで、もう、最高にカッコいい。

    全体的にコミカルでポップなテンポで進行する中、霊能者との対決シーンなどでは非常に緊張感のある空気を作ったり、結婚式のシーンのように泣かせにかかりつつも、それを完全にお涙頂戴に収めず、少し笑える部分を取り込んだりと、その辺りの案配も絶妙だなと思った。

    終盤、船出と悪霊たちと対峙するシーン。
    この緊張感あふれるシーンからの、人生逆再生への展開は圧巻だった。
    単なる逆再生ではなく、そこに加えられる老年期の創のセリフが、何とも言えない温かさを含んでいる。
    何だか、もうそれを見ているだけで、聞いているだけで、じんわりと来てしまった。

    さて。
    ストーリーの方はと言えば。

    誠にもって恥ずかしながら、私はストーリーだけに関して言えば、終演後「?」の状態だった。

    この作品の魅力の一つにテンポの良さと軽妙な会話があげられると思っている。
    ただ、これって、私みたいに頭の悪い人間には少々しんどい。

    本編の中で、少々違和感を感じさせるセリフというのはいくつか存在する。
    私としては「ん?今のってなんだ??」とちょっと一呼吸置きたいところなんだけど、そんなことを
    している間もなく、ガンガン物語は進んでいく。
    しかも、会話の情報量が多いから、合間に考える時間などまるでない。

    結局、そういう、何だかのどに刺さった魚の骨みたいなものを大量に作りながら、どれも抜け落ちることなく、終盤まで進んでしまい、極めつけはこれである。

    「君は犬の幽霊だ」

    悪霊、すなわちチノが犬の幽霊であったと明かされたとき、私の頭は真っ白になってしまった。

    え?どういうこと???

    多分、察しの良い人は、この一言できっとのどに刺さった骨たちが、一気に抜け落ちていくのだろうけれど、私の場合、でかい骨がさらに一本刺さってしまっただけで、軽いパニックになってしまった。

    真っ先に頭に浮かんだのは、創が結婚後、飼い始めた犬がチノでその幽霊なのかと思った。
    けれど、それだと時系列が全然合わない。

    船出やチノのセリフの雰囲気からすると、どうも谷本家とは関係ない犬のようにも思われる。
    ただ、これはこれで、色々とつじつまの合わないことも出てくるんだけど、結局、帰りの道中も
    頭の中は「?」だらけで、あーでもない、こーでもないと反芻を繰り返す。

    結局のところ、終演から30時間近く経った今でも、物語については誠にもって申し訳ないことに、
    多分全然理解しきれていない。
    とりあえず、今の時点での自分の解釈はチノはやっぱり谷本家で飼われていた犬なんだろうということ。
    ただ、それは現在の創、そして、寛史ではなく、もっと昔のどこかの時代の谷本家なんだろうな、と。

    要は前世とか転生とかその手のやつで、創の遥か昔のどこかの前世では犬を飼っていて、それが
    チノだったのかなと。
    まぁ、前世なので必ずしも谷本家である必要はないんだけど、その方がちょっと私の中では
    絵になる解釈なので、そういうことにしている。

    だから、私の中では、創とありかの子供は何世代目かの寛史である。
    もう一代くらい挟んでも良いんだけど、その方が個人的にはちょっと好きなので。

    これってもちろん超解釈であることは承知している。
    ただ、本編の中で、寛史が創に名前を付ける時に、
    「思い出した」と言ってみたり、悪霊とのやり取りの中で
    「一回は通る道だと思うんだ。でも創は聞いてこなかった。それは、俺と同じだからだったんじゃ
    ないかなって思って」
    と言っているのが、どうにもこうにも気になっていて、その辺を軸にして考えると、その解釈が
    自分の中では一番しっくりくるかなーって。

    もちろん、これはこれで、解決できない疑問が山ほどあるのは百も承知だけど、もう私の中では
    これが精いっぱいの解釈。

    演劇の解釈は個人にゆだねられているのを良いことに、そういうことにさせて頂いております。
    全くの的外れだったら、ごめんなさい、目崎さん。

    まぁ、それはさておきである。
    チノ・・・というか、動物的な目線で、この物語を追ってみると、台本の文字を読むだけで号泣
    できる要素が満載であることに、今更気づく。

    チノという犬の出自が何であれ、彼女は捨て子であろうと思う。
    それでも彼女は飼い主がいつか迎えに来ることをひたすら待っている。死してなお待っている
    のである。
    彼女が捨てられた理由は分からない。
    けれど、彼女はレイナにこう答える。
    「きっと、ワガママだったから、あたしは捨てられたんだよ」

    それが本当なのかは分からない。
    分からないのである。

    本編では猫やシロが人間の言葉を話す。
    けれども、それは演出上の話で、彼らの言葉は人間には理解できていない。

    「なんか、すげーにゃーわんにゃーわん言ってる」

    様にしか聞こえない。

    かくいう私も動物と暮らしている。
    私と妻、そして二匹の猫と一匹の犬。
    私たち夫婦にとっては、大切な家族であり子供であるが、彼らはみな捨て子である。

    彼らと同じ時間を過ごしていて、彼らの言葉を理解することが出来れば・・・と思うことは
    しばしばある。
    犬も猫もいるので、まさに「にゃーわんにゃーわん言ってる」状態は日常茶飯事で、
    我々夫婦は、彼らが考えていることを想像でのみ理解して、彼らと接している。

    「きっとそうだろう」という想像が必ずしも正しいとは限らない。
    言葉を理解しあえない以上、すれ違いは確実に生じている。

    チノは自分がワガママだったから捨てられたと思っている。
    けれど、この優しい物語の中で、チノはそんな理由で捨てられてしまったとは思えない。
    何かやむを得ない事情があってのことだと思いたい(事情どうあれ捨てたことは許せないけど)。

    それがチノには伝わらない。
    不安を抱かせてしまう。
    飼い主の愛情を知ることが出来ないのだとしたら、これほど悲しいすれ違いはない。

    成仏できないほどの無念。

    うちの子供たちにも、そういう思いをさせてしまうのだろうかと思うと、何とも言えない気持ちに
    なった。

    劇中、シロが言葉を話すことはあまりないのだけれど、

    「いつだって一緒にいたかったよ」

    という言葉。
    ストーリーを理解できていなかった観劇当時も、この言葉には泣かされてしまった。

    シロが旅立った後、創はチノにこう語る。

    「あの子はずっと一緒にいてくれたんだよ。ありがたいことにね」
    「自分のことでいっぱいで、一緒に入れない時間もたくさんあって…」
    「幸せだったかな」

    私はもうこのシーン、胸をひどく抉られた。
    そうなんだよなー…ほんとにそうなんだよ。

    今、私がこうやってPCに向かってせっせとこの感想を書いている間、うちの子たちは
    妻に襲い掛かって、毛まみれにしているところだと思うけれど、私も妻も不在の時は、
    犬も猫もケージの中である。

    うちの犬は妻が拾ってきたこともあって、妻といる時間の方が長いのだけれど、女の子
    だからか、間違いなく、私の方が好かれている。
    本当は、私ともっと時間を共に過ごしたいのかな、などと思うと、なんだか、どうにも
    なんとも、かんともな気持ちになってくる。

    猫もシロも旅立った後、猫が幽霊になってチノと一緒にいることを知った創は言う。

    「・・・いいなぁ、幽霊」

    私も同感である。

    この猫とシロの旅立ちのシーン。
    非常に印象的な演出である。
    この優しい描写に、書き手の人間性が強く表れているような気が私はした。

    まぁ、他にも書きたいことは満載なんだけど、ちょっと収拾がつかなくなりそうなので、
    強引にここで切って、登場人物と役者の皆様の振り返りなど。

    ◎谷本家
    細田こはるさん、ニュームラマツさん、鳥谷部城さん、小太刀賢さん
    瀧啓祐さん
    熊坂真帆さん
    中村桃子さん
    小林駿さん
    園山ひかりさん

    愛情あふれる家族だなぁ。ほんとに素敵。
    ちょっと頼りないお父さんに、どっしり構えたお母さん。
    なんだかんだで仲の良い兄妹に、家族の一員たるわんこ。
    そして、新たに谷本家の一員になるしっかりもののお嫁さん。
    サザエさん一家的な温かい家庭で、観ているだけで優しい気持ちになれました。

    細田さん、まさかの少年役。でも、とてもお似合いだった。
    元気いっぱいのあのテンションは、やっぱり細田さんならではでニヤニヤしながら
    拝見しておりました。

    インパクト大の青年期はニュームラマツさん。そして同じ時代を過ごすシロは小林駿さん。
    このお二人で印象的なのは、失恋後の部屋で一緒に過ごすくだり。
    テンション高めのシーンが多いニュームラマツさんだったけれど、とてもしっとりとした
    印象深いシーンでした。

    麗花役の中村桃子さんは、このシーンでも絡んでくるんだけど、ドア越しの二人の会話が
    すごく好きでした。
    なんだかんだでお互いを思いやる優しい兄妹。

    この兄妹の関係性が、私はとても好き。
    ブラコンでもシスコンでもない。適度な距離間の仲の良さ。
    父の葬儀の時のやりとりがなんだかすごく印象的でした。
    壮年期を演じた鳥谷部城さんとの絡みになるんだけれど、父の死に対する兄妹それぞれの
    温度差。
    鳥谷部さんの語り口はとてもやさしくて柔らかい。
    彼の見解は、麗花にとってはひどく冷めたように感じられたのかもしれないけれど、私は
    ちょっとわかる気がしたかな。
    ああいう見送り方が出来るのって、幸せなことだと思う。

    母親である奏を演じられた熊坂真帆さん。
    「母性」を象徴するような役柄。おおらかで、芯があって、懐の深いその所作がとにかく
    印象的。
    優しくも強い母であるが故に、病気のシーンは切なかったです。
    息子を前に気丈にふるまう奏。
    なんかその姿だけで、じんわり来ました。
    奏での死後、チノのもとを訪れた寛史が帰るときに、それを待っていた奏。
    セリフはないんだけれど、色んな示唆に富んだシーンで、何だか胸が締め付けられました。

    寛史を演じられた瀧啓祐さん。
    こわっぱちゃん家での公演では見かけなかった役柄で、意外に思いつつも楽しく拝見させて
    頂きました。少年時代すごかったー。
    でも、子供たちに寄り添うすごくいいお父さん。
    父というよりは男として息子に接する姿が、すごく好きだったなぁ。
    私は人間の父親になる予定はないけれど、もしもなるんだったら、子供にはああいう接し方を
    したいな。
    真骨頂は死ぬ前にチノと交わす会話。
    この二人の会話は、どの場面も好きでした。
    なんか、お互いに、答えを知ったうえで話しているというか、そんな緊張感のあるやりとりが
    見ごたえありました。

    須本ありかを演じられた園山ひかりさん。
    こんな先輩がいたら、そりゃ、惚れるよなぁ。
    「私の代わりに、読んで感想を聞かせてほしい」
    とかちょっとずるいほど、パンチあるよね。俺も文芸部はいるわ。
    印象に残っているのは、やっぱりプロポーズのシーンかな。
    会場の空気、めちゃめちゃ温まった。
    フィクション史に残る珠玉のプロポーズシーン。
    なんか園山さんはありかを演じているというよりは、ありかそのもののような感じがしました。
    はまり役っていうのは、こういうのを言うんですかね。

    さて。
    老年期を演じられた小太刀賢さん。
    なんでしょうね。ちょっと言葉にしがたい素晴らしさだった。
    鳥谷部さんもそうなんだけど、小太刀さんもまた、語り口がすごく心地よいんですよね。
    劇中、老年期の創がちょいちょい出てきて、回想をするんだけど、そのシーンのたびに、
    何だか安心してしまうというか、うまく表現できないけれど、心が穏やかになるような
    そんな感じでした。
    シロと絡むシーンは、どれも素敵だったなぁ。そして、そのたびに泣いてました、私。

    ◎幼馴染たち
    大和田あずささん、布施知哉さん

    いわゆる腐れ縁三人衆だけれど、この3人の関係性ってすごくいいなって思う。
    私もこういう腐れ縁が欲しい。
    蓮を演じた布施知哉さん、なんていうか「腐れ縁」な感じが本当にすごく良かった。
    腐れ縁な感じってなんだ?って話だけど、お調子者感というか、そういうのがすごく好きだった。
    この3人が集まっているシーンって、どれも楽しくて好きなんだけど、一番好きなのは
    結婚式の後のやりとりかな。さっぱりした感じが大好き。

    藍子役の大和田あずささん。
    まさか生まれた直後から壮年までを演じられるとは。
    赤ちゃんの時の創にパンチするシーン。大好き。
    藍子もすごくいい子なんだよなぁ。
    考えてみれば創っていうのは、とても幸せな人だなって思う。
    初恋の人と結婚し、生まれた時から一緒に過ごしている親友がいるなんて、なかなかあるもんじゃない。
    藍子と創の関係性で素敵だなって思うのは、愛だの恋だのが絡んでこないこと。
    まぁ、読み取り方によっては、そういうのを感じる描写もあることにはあるんだけれど、私はあえて
    そこは無視。
    この二人にはね、そういう愛だの恋だのといったところをはるかに超えたところで繋がっていてほしいなって思う。男女間の友情は存在する派なので、私。

    ◎霊にまつわる皆様
    大森さつきさん、中野亜美さん、中田暁良さん、永渕沙弥さん、白井肉丸さん

    まずはレイナさん演じる大森さつきさん。
    おキレイでしたね~。霊にまつわる皆様に共通することだけど、衣装がすごくお似合いなんですよね。
    今、パンフを見ていて気付いたんだけど、衣装はなんと永渕さんがご担当なのでしょうか。すごい!
    浮遊霊という設定どおり、軽やかに舞うような所作。素敵でした。
    でも、レイナも霊ではあるので、前世では結構、ひどいめに遭ってたんだろうなぁと思うと、ちょっと切ない。

    そう思うとね、中田暁良さん演じるマモルにもちょっと思うところはあるわけです。
    彼は悪霊だけあって、本当に悪いやつなんだけど、彼にもまた悪霊になってしまった理由というものがあるわけで、彼の孤独を思うと、同情できる部分はあるのかなという気も。
    ただ、この作品は、全編になんともいえない優しさが漂っているから、完全に悪役であるマモルもどこか、ちょっと憎めない部分があったり。
    ちなみに私はキャラ的には、マモル大好きです。
    衣装もかっこいいんだけど、やっぱりあの所作がね。真似したくなっちゃう。しないけど。

    猫を演じられた中野亜美さん。
    さっきも触れたとおり、私は本編のストーリーに関してはあまり理解できてません。
    なぜかと言えば、繰り返しになるけど、頭が悪いうえに、テンポが速くて理解が追い付かなかったから。
    そして、もう一つの理由は、猫に夢中で、ところどころ会話に集中しきれなかったから。
    いや、ホントにびっくりしました。
    「え、あれ、もう猫じゃん!?」
    っていうくらい猫。
    私、人間があんな風にしなやかに、軽やかに、音もたてずに動ける生き物だなんて知らなかった。
    見惚れました。脱帽です。
    人間の動きであんなに感動したのは、ジャッキー・チェンの酔拳以来かもしれない。
    役どころも良かったですね。
    チノのことが心配で、幽霊になってしまうくだり、ちょっとホロリとしてしまった。
    チノと猫、レイナのガールズトークはどれも好きだったなぁ。

    霊能者、船出真理を演じられた永渕沙弥さん。
    最高にかっこよかったですね。
    煙草を吸う女性って好きなんですよね。絵になるし、かっこいい。
    そして強い。
    最初にチノと対峙するシーンで、やり合う準備をしていないと言いつつ、チノと同等以上の
    力を見せつけるんだけど、この辺の見せ方が、憎いばかりに素晴らしい。このシーン大好き。
    永渕さんの演技も素敵なわけですよ。
    ああいう姉御っぽい語り口、大好きなんですよね。声にも力強さがあるし、芯もあるから、すごく似合う。
    もうなんてったって、この人の最大の見せ場はやっぱり最後のシーンでしょう。
    「駄目だ。許さない。親になるんだろ!」
    っていう叱咤は震えた。
    このセリフだけじゃないんだけど、このシーンでのビリビリとした緊張感は、永渕さんの演技あっての
    ものだと思う。いやー、もう、このシーン全般、ホントぞくぞくした。

    悪霊、いや、チノを演じられた白井肉丸さん。
    私にとって、この物語の主人公はチノ。
    チノのセリフで一番印象に残っているのは何といってもこれ。

    「呪い、まだ必要ないよやっぱり」
    「あたしだって忘れてたのに」

    これねー…
    なんかもう書いているだけで泣きそうになる。
    この言葉を創から聞いたとき、チノはすごく幸せだったと思うんですよね。
    捨てられた、言い換えれば、忘れ去られたことに対して、強烈なトラウマを持っているだろうチノが、
    自分から言い出したにもかかわらず忘れていた約束を、大切にしている創から聞けたことは、彼女に
    とっては驚きであると同時に嬉しくもあったんだろうなぁと思う。

    チノと創の関係性の移り変わりは、この作品の見どころでもあるんだけど、そのちょっとした温度差に
    少し切ない思いはあったかな。

    彼らの思いって、なかなか一致しない。
    一致しないというか、すれ違ってしまうというか。
    別のシーンで、創がチノの存在をありかに話してもいいか質問するシーンがある。
    創にとって、チノというのは、家族や親友に並ぶような存在になっていたんだと思う。
    だからこそ、その存在を、同じく大切にしているありかに知ってもらいたかったんだと思うんだけど、
    チノにとっては、その思いはともかく、そういう形で表現されることを求めてはいなかった気がするんですよね。

    本編の始めの方で、子供時代の創に対して、
    「創、君は私のものだ」
    っていう言葉。
    チノはこの言葉を、特に意図なく使ったんだと思うけれど、創にとっては、ある意味、呪いのごとく、
    この言葉は刻み込まれて、ずっと、それを忘れずにいたわけで。
    なんか、もどかしいというか、むずがゆいというか、心地よくもあるというか、そんな感覚が、
    終始、彼らの間にはあったように思う。
    そういえば、書いてて気づいたけど、なんで、チノはこの時点で創の名前を知ってたんだろ?
    んー…まぁ、いいや、後でゆっくり考える。

    そういった、チノの心中の揺らぎのようなものを、白井さん、とても見事に繊細に表現されていたよう
    な気がする。
    色々と思い出すだけで、ちょっと泣けてきますな。
    素晴らしかった。

    ◎脚本・演出
    目崎剛さん

    目崎さんの書かれた演劇を拝見するのは先日の『いまこそわかれめ』に続いて今回が二本目。
    『いまこそわかれめ』もそうでしたが、今回も完全にお話を理解しきれませんでした。
    せっかく作って頂いたものを汲み取り切れず、申し訳ない思いです。

    けれども、全編に優しさの漂う作品で、これが目崎さんの世界なのかなと思っています。
    観劇から数十時間を経てしまいましたが、ようやく、少しずつ、染み込んできました。

    心に残り続ける作品をみせて頂いたと思います。
    劇団の皆様、役者の皆様、素晴らしい作品を本当にありがとうございました。

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    2019/12/10 00:41

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