最後の伝令 菊谷栄物語 公演情報 劇団扉座「最後の伝令 菊谷栄物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    久しぶりの扉座である。
    確か早稲田の学生劇団からスタートしていると記憶しているが、65回公演と打っているから30年は続いているわけだ。作者はほぼ、主宰の横内謙介一人で、この作者は劇団だけでなく、商業演劇も、歌舞伎も書く。この人の多才と劇団活動への熱心さに支えられてきた劇団で、演目も活動範囲も、小劇場としては珍しいタイプである。今回の「最後の伝令」は昭和前期の浅草軽演劇で榎本健一を支えた作者・振付家・菊谷栄を主人公にしている(有馬自由)。
    昭和6年に菊谷栄がたまたま出会ったエノケンの作者になってから、徴兵されて12年に北支で戦死するまで。バックステージもので、舞台に乗るのは、菊谷に徴兵令状が来て、故郷の青森に帰った数日間が素材である。
    タイトルにもなっている「最後の伝令」は昭和6年のエノケン浅草売り出しのころのヒット作と伝えられるが、それを再現したわけではない。サブタイトルには「菊谷栄物語」と振っているが、その生涯の伝記を目指してもいない。芝居の後半は、小劇場としてはずいぶん張り切って当時の浅草の軽演劇レビューの雰囲気を出そうとレビューのシーンが続く。サブタイトルにさらにサブタイトルがついて「1937津軽~浅草」となっている。
    最初に「最後の伝令」の稽古らしきシーンもあるが、前半のドラマは劇団員が出征する菊谷に託した手紙を青森出身の劇団員(客演のAKB横山由依)が持参して届けると言う物語。後半は出征する菊谷が品川を通過するというので新宿第一劇場に出ていたエノケン一座が舞台を中断して品川まで見送りに行くという話で、そこに舞台の表裏をちりばめて一種のバラエティのような構成である。前半の物語には、浅草軽演劇の紹介だけでなく、本籍地入隊の徴兵制度、内務班の組織、当時の東北農民の貧困、人身売買、その救済策としての満州進出など、当時の社会的背景も織り込まれているし、後半のレビューシーンにはエノケン(犬飼淳治)が歌うシーンや、ダンサーが躍るシーンや、カンカン(これは戦後になっての輸入と思うが)まであって、見ている分にはテンポもよく歌に踊りに、笑いと涙と、かつての大衆演劇を見ているように飽きないが、さて、この芝居の軸は何なのだろうかと考えると、はぐらかされたような感じもする。
    案外この時代のバックステージは本格的に芝居になっていないし、この時代をナマで知っている人はほとんど亡くなってしまったのだから、もっと大胆にドラマ化してもいいと思うし、逆に、徹底的にリアリズムで絞り込んでも、面白かったのではないかとも思う。(例を挙げれば、「天井桟敷の人々」この映画のおかげで、フランスのブールヴァール劇がどんなものであったか、リアルにわかる)この素材も商業演劇でメインの俳優をスター配役して、レビューもプロの人たちでやっても、(興行元が慣れていれば)もっと大きな劇場でもできるだろう。エノケン伝など面白くできそうである。
    今回は、軸になる俳優の実年齢が作中人物の設定年齢より高くなってしまったのも、意外に気になるところだった。


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    2019/11/29 00:33

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