満足度★★★★★
座席1階B2列6番
2人芝居という意識が強かったので、舞台スペースの広さにちょっと驚き。開幕して、そうか合唱団がいるんだ、と首肯。
2011年にノルウェーのウトヤ島で起きた、極右青年による銃乱射事件を題材にした舞台。
インスピレーションによって創作された本作は、事件とは別物であるが。
話は、多国籍・多民族の老若男女で構成された合唱団を指導するクレアの苦悩を軸に展開する。彼女は眼前で、合奏団員を銃殺されるが、彼女自身は生き残る。彼女はシンさんという合唱団員と2人きりになり、銃撃犯の青年はその2人に問いかける。銃弾は残り1発。「どちらが撃って欲しい。」
クレアは指導者を続けるが、自らの傷を癒すために、死んだ者たちの鎮魂のために合唱隊を指導するようになり、合唱の楽しみを失っていく。クレアには、犯人の青年と向き合うしか生きる方向が見いだせない。南果歩演じるクレアの混乱、動揺、不安定、懐疑、失意、がその身体そのものを通じてうまく表現されていた。
小久保寿人という役者さん、公演情報(フライヤーやHP)を観た時には、誰だろうと思っていたのだけれど、ああ、確かに知っている。「メゾン・ド・ポリス」の印象がとにかく強い。その冷えきった眼力、狂気を垣間見せる口元、メリハリのある身体性。小劇団出身だと勝手に思っていたが、埼玉ネクストシアター出身とは。
この舞台、彼は銃撃犯の青年を主に演じているのだけれど、それ以外にも、クレアの女友達、恋人、政治家、医者、学校教師(だったと思う)などを演じ分けている。その役柄転換のタイミングの図り方は天性の物だろう。演じ分けられる演技力があればよいというものではない。これらの人物は、クレアの記憶に登場する人物である以上、クレアの心象風景に違和感なく入り込んでいかななければいけない。これが実に巧みだ。
そして、何よりも犯人の青年像を、登場シーン、準備のシーン、殺戮終盤のシーン、クレアとの邂逅のシーンと、多角的に情動的に演じきっている。異民族殺戮のために、バイキングになろうと、アポリジニになろうとする際の、独白の高揚感はこの芝居の1つの見せ場だ。とてもよい俳優だと思う。今後、注目。