誰が為に鐘が鳴るなり法隆寺 公演情報 オフィスリコプロダクション株式会社「誰が為に鐘が鳴るなり法隆寺」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/11/23 (土) 13:00

     2019.11.23㈯ PM13:00 中野 劇場HOPE

     前日から降り続く雨の中、のぐち 和美さん、椿 紅鼓さんが出演されていたoffice RI.coプロデュース 劇団 燈楼 旗揚げ公演『誰が為に鐘が鳴るなり法隆寺』を観る為、足を運んだ。

     一段高くなったアクティングスペースが舞台の中央にある以外、一切の物が削ぎ落とされた空間で繰り広げられるのは、あることをきっかけに人生を見失い、大事な試合に負けるために挑もうと考えていたボクサー登坂直樹と同じ頃、ヤクザの成門が些細ないざこざから新宿歌舞伎町で刺され、死にかかっている所へ偶然現れた日本神話の神様、天照大神と須佐之男命の二人が好奇心から成門を助け、登坂の計画を狂わせ、助けられ、計画を狂わされた二人が天照と須佐之男と関わるうちに変化して行く先に待つ運命とはいかにと言う、古事記の神々と、ニンゲンたちが織りなす物語。

     男たちが真に求めるものとは?本当の強さとは?愛とは?笑いの中に時に胸を衝き、心を貫く言葉と感情が目まぐるしく入り乱れるジェットコースターのような急展開の殺陣あり、踊りありのエンターテイメント活劇。

     古事記の神様天照大神、須佐之男命と負けてリングを去ろうと思い詰めているボクサーと刺されて死にかけている歌舞伎町の極道この三竦みのような組み合わせに、殺陣と踊りと笑いを散りばめて展開されるというこの設定だけでもカオスで、観た事もない舞台にのっけから引き込まれ、2時間数分が刹那に感じた胸踊り、胸に刺さる上質なな娯楽活劇。

     冒頭から要所要所で出て来る小山蓮司さんの『運命』は、天照大神に寄って一命を取り留め、いつ死んでも良いと諦観し、生きる意味も目的も捨てた様に生きていた成門が、天照大神や登坂と関わり合うい、生きたいと思った時、その手で成門の命を奪う。

     それは、一見決められた運命からは逃れられないと言う暗示にも見えるが、生きる意味、生きたいと思う何かを見つけるまで死を猶予し、そういう気持ちが芽生え、人の想いや愛の温かさを知り、人として命を終えさせる為の『運命』の計略のようにも感じた。

     『運命』は、須佐之男命が探し続ける喪った半分の自分のようでもあり、半分の自分を探すように誘う案内人のようであり、登坂にとってはやさしい『運命』であり、光と闇の2つの運命を司っているように感じた。

     小山蓮司さんは、2年前ゲイジュツ茶飯で『カエルの置物を食べたヘビ』のペケがとても強く記憶と印象に残っている役者さんだが、今回の『運命』の最後の微笑に『運命』の全てが集約されているような凄みを感じた。

     白倉裕二さんは、4年前、Xカンパニーの『泡の恋』で観た時とは、ガラリと印象が違った、いつ死んでも良いと諦観し、生きる意味も目的も捨てた様に生きるシリアスな極道かと思えば、その中に笑いを散りばめ、時に胸を突くような人生の真理や胸を刺す事を言う成門とお気楽なツクヨミの両極と鋭くきれいな殺陣に魅せられた。

     3月の芸術集団れんこんきすた『雲隠れシンフォニエッタ』の源氏への愛の執着に苛まれる六条御息所とは対極の過保護でおっとりとぼけて明るい椿 紅鼓さんの愛らしく、たおやかな天照大神は、笑いからシリアスになった場をふんわりと明るく照らし、出てらっしゃるだけで場が和んでほっとした。

     銀ゲンタさんのスサノオの明るさの中にある喪われたもう一人若しくは半分の自分を思い出せないことにより秘めた暗さ、忘れた自分を探す為に地上に降り、登坂と出会い共に過ごす内に、喪った自分を思い出し始めた時の荒ぶる心に、自制が効かなくなり烈しい感情の発露の美しく凄みとキレのある殺陣と、スサノオの光と影、陰と陽、不安と孤独、優しさと強さと弱さ、忘れていた半分の自分を思い出した上で、神としてスサノオとして生きる事を選んだ表情が清しかった。

     御祝儀出演されていたのぐち 和美さんは、3場面で10分の出演であるのに、『毛皮のマリー』『疫病流行記』とは全く違う、軽やかでコミカルで、観ているだけで楽しく、10分の場面がどれも記憶に強く焼き付く。中でも好きなのは今日子さん。あの、破壊力のある面白さは、筆舌に尽くし難い。差し入れにお渡ししたお花を今日子さんの場面で、何やら使って下さったとのぐち 和美さんから聞き、千穐楽も観たかったと思ったぐらい好きだった今日子さんだった。

     今月の観劇の締めに観られて良かったと思った、笑いの中に人生の真理を突いた胸を衝き、胸を刺す言葉と感情が散りばめられつつ、美しい殺陣と所作に見惚れた、観終わった後に爽快感としみじみした情感と楽しさに充たされた舞台だった。

                    文:麻美 雪

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    2019/11/26 13:13

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