満足度★★★
鑑賞日2019/11/08 (金) 13:00
座席1列
森本薫「女の一生」の初稿版の上演とのこと。戦中に書かれた、国策高揚のための戯曲ということなのだが、いささかどうして、家族の不確かさ、女性の能力賛美、日中新時代の到来(まあ、この点は大東亜共栄圏賛美ともとれるのだが)等と、今の視点から見てもかなり開明的だ。現代の視点で語られる戦中・戦前というと、家父長制に象徴される封建的な社会構造、男尊女卑的な家族構造、軍事先鋭な国家体制と、かなり閉鎖的・強権的な暗いイメージが多いが、主人公布引けいの生き様は溌溂として戦争の暗澹たるイメージは微塵もない。(まあ、そうして敗戦色を消し込む意図もあったのかもしれないけれど)自由闊達、聡明で力強い女性像は、まさに現代でも求められるものである。
内田里美が主人公を好演。少女期から初老期まで、利発な女性像をブレなく演じ切る。そして、その才故に家族の絆を失っていく深い悲しみを湛えながら。
けいの娘役を操り人形(かなりシュールな)に演じさせたり、男役を女性に女役を男性に、部分的に転倒させたり、部分部分で独特な構成を盛り込みながらも、全編を通底する人間賛美のトーンは、演出家が真摯にこの古典と向かい合った賜物だろう。そして向かい合う覚悟を決める意味で、初稿である必要があったのだと思う。
「誰が選んでくれたのでもない、⾃分で選んで歩きだした道ですもの。間違いと知ったら⾃分で間違いでないようにしなくちゃ」よいセリフだなあ。一緒に観た母親が、感涙しかけたのもよく解る気がした。
ただ、3回目の公演しても、一部でセリフに詰まったり、空気が澱んだりしたのはちょっと残念。リカバリーに苦労している様子は観ていてつらいものがあった。