満足度★★★★★
井上ひさしはこの作品を通じて何を言いたかったのか。これまでは、「あとに続くものを信じて走れ」というメッセージばかりに注目していたが、それだけではない。ほんの一握りの支配者を除いては、敵も味方もない、ということを言いたかったのではないか。そんな気がした。その象徴が、ひさし作詞の曲「胸の映写機」である。誰しも生きてきた中で、かけがえのない光景を持っている。それは敵である特高とて同じ。その人間観は、おそらくはひさし自身のものなのだろう。合唱を聞きながら胸がつまった。井上芳雄や高畑淳子の名演技は言わずもがなだが、新たに多喜二の恋人タキ役に抜擢された上白石萌音も、適役。イメージにぴったりだ。