満足度★★★★
初日を観た。川村氏程の熟練なら客の受け止め方を鋭く嗅ぎ分け、日々修正を加えるも手慣れていそうだ(個人の想像です)、という事を考えたのは出来立てナマ物な感触の舞台であったから。原稿用紙の鉛筆書き(かどうかは知らないが)の文字が背中から立ち上るような俳優の様子でもあり。これ即ち筆一本で世に挑む作家魂の顕われ方であろうか・・そんな事を思った。
オウム事件を題材に書かれた戯曲。架空の教団を設定し、脚色はあるが国政選挙出馬から弁護士殺人事件、地下鉄サリン事件と、それと判る事跡を辿る。
当日パンフに川村氏は人間の忘却と記憶について記している。確かに事件は確実に風化している。自分の中でも・・若者たち、それも高学歴の者たちがサティアンなる工場まで建て、高度な技術を要する化学兵器を作って無差別殺人をやらかしてしまった。現代の病理が取り沙汰されたがあの問題はどうなったか。人間疎外(これも今や懐かしい単語)が再生産される構造は所与のもの、この世の自然な姿と受容されている、という事ではないか(別の見解もありそうだが)。
リアルタイムで知る者には未解決のまま思考放棄した疼きのある事件。このテーマに対峙した舞台だ。