満足度★★★★
松田正隆、ストレートプレイでの復活である。
もう二十年以上昔、「海と日傘」や「夏の砂の上」で芝居好きを静謐な感動に誘って堪能させた劇作家は、ここのところ東京の日常の演劇の表舞台から消えていた。失っていた世界に、また再会して、その長い喪失の時間を知った。この新作は、日常の生活に寄り添って人間の哀歓をドラマにする伝統的な「新劇」現代劇の良さを遺憾なく発揮している。
-ご無沙汰を感じさせない松田節が健在だった!!! まず観客としてはそれが大きな喜びである。
松田正隆はこの二十年の間に、抽象的な演劇作品を試み、大学で教職に就き、学生と触れ合い、イスラエルに留学し、京都から東京に住まいを移し、と個人としては動きの激しい体験をしてきた。その結果の東京の日々を題材にしたのが「東京ストーリー」である。
軸となる人物もそれなりに歳を加えて、50歳台の大学教員の佐和子(津田真澄)と不動産屋に勤める奈々(野々村のん)の職業を持つ独身女性二人をめぐって、コントの舞台を目指す姪たち女学生三人組や仕事場で出会う男性たちとの生活がつづられていく。
一シーズンの春の何気ない日々の重なりの中に、東京に住んでみた作者のこの大都市生活者への実感が込められていて心を動かされる。かつてのようにここでもこの作家は誠実な生活者の目でドラマを見つめている。市井の物語なのに凛とした格調がある。他者の追従を許さない松田の世界なのだ。
松田に新作を書かせた青年座に大きな拍手。俳優では津田真澄。押していく役柄が多い俳優だったが今回は受けに回っていい味を出している。最近よくいる妙に無神経な男を演じる山賀教弘もうまい。若い演出もノーセットの舞台を苦労して切り回しているが、軸になる女性三人の位置(生活と関係)は、はじめのうちにしっかり押さえておいてほしかった。休憩なしの二時間。