満足度★★★
本年度より統括が変わり(3代目)新たな試みもあるらしいF/Tトーキョー、毎回1、2本観られればラッキーで今年もオープニングの「セノ派」のパフォーマンスは目にとどめたが、気になっていた松井周作「ファーム」韓国人演出バージョンもどうにか観る事ができた。
「ファーム」は私のサンプル初観劇の舞台で、芸劇らしい舞台の使い方と近未来の雰囲気と役者の佇まい、静かな会話の中からじわじわと異形が首をもたげる感じが好感触だった。
が今回の演出はまるで違った(演出家本人も作者の思いとは正反対の方向かも知れないと吐露)。その評価は難しく、字幕を介しての観劇という事もあり身体パフォーマンスに寄ったのかも知れないが、初演を観て期待した者としては、その片鱗だけでも感じたかった所、換骨奪胎というか、初演では「異形」の根底に静かに流れていた愛情・愛着のような気分を、激烈な愛情表現として前面に出してきた。
さて、それが作品の核であるはずの「近未来」の人間のありようを探る試みとしてどうだったかと言えば、クローン技術や遺伝子操作といった生命倫理の問題は吹き飛んでしまい、達者な俳優らの声色・身のこなしの芸を見ることは出来たがより高次な「作品」への貢献として印象づけられる事がなかった。
作り手はこの作品の上に乗っかって「遊んだ」のだろうが、作者が最も注意を割いた部分を(手に余ったのか)省いてしまった、と見えた。
残念ながら自分の感性ではこの舞台の意義を掬いとることができなかった。