満足度★★★★
360度回転の豊洲のステージアラウンドでの上演である。おなじみのウエストサイドストーリーだが、今回は新演出である、アメリカのカンパニーだが、これだけ特殊な劇場だと、過去の舞台の再演というわけにはいかないだろう。新演出、初演とうたっている。
キャストも若い俳優が多く、劇場ともども初々しい。演出は劇場機能を巧みに生かしていて、無理をせず、運びもいい。今までは荒廃したNY下町を思わせる一杯セットを照明や小道具で場面移動していたが、よく飾りこんだフルセットで次々に代わっていく。回転客席だから、場面によっては客席がズームのように舞台に寄って行く。今までの劇場にはない効果だ。舞台の幕にあたるスクリーンを開閉して、場面の広さを変えるのも成功している、バルコニーが、せり出しでスクリーン前の天空に浮かぶ「TONIGHT」の二重唱や、広くなった舞台でほとんど全員で四重唱になる一幕の、幕切れ前もよかった、あらためて言うまでもないが、さすが名作中の名作、曲もよければ詩もいい、あまりむつかしい振り付けではないが、細かく、きれいにまとまったいいダンスナンバーが多い。ことに抽象的なシーンでの起承転結がうまい。
六十年前に初演された時には、時代へのプロテストがあった作品だが、今はそれが何か懐かしい感じで見られてしまう、若いアメリカ人のカンパニーも、どこか古典作品のおさらいのように生真面目に努めている、名曲の「アメリカ」モ、「サムホエア」も、軽いタッチの「アイ フィール プリッティ」も20世紀の色合いが深い。衣装もセットも細かい。二幕、マリアがおめかしをする衣装のスカートの裏地が黒だ、それを意識的にちらっと見せる。アイフィールプリッティが、舞台に体現されている。高速道路下の決闘場のセットは、高速道路を舞台中央で奥へカーブさせて奥まで見せている。大衆車の廃車とかごみが上手に飾ってある。広い舞台を生かして、その下の移民の若者同士の争いの貧しさを見せる。彼らの住まいや酒場はまるで「ガラスの動物園」の空気だ。演奏もいい。管楽器の聞かせ場で原曲が映える。日本人のトラも入っているのだろうが指揮はあちらの人だった。
この最新式の劇場で場面をフルセットで組めたために時代のリアルな感じが引き出された。それをアメリカの若者が律義に演じている。一万五千円は高いが、この名作への現在のアメリカ人のとらえ方を楽しめた。
この劇場では、この公演に引き続いて三組の日本人キャストで、同じ舞台を6月間上演する。コピー版となるのだろうが、それはどうだろう、確かに日本のミュージカルはなかなか欧米の水準に追いつけない、脚本も、演出も、演技も振り付けもいまだに背を追っている、だが、このよくできた古典をコピー再演するのは、興行の安全を考慮するとやむを得ないのかもしれないが、どこか寂しい感じもする。それは観客も敏感に感じているのかもしれない、この舞台、意外にも半分しか入っていなかった。