満足度★★★★
長塚圭史作品と言うと新国立劇場の子ども向けプログラムや他劇団によるリカバーを一度目にした記憶だけだったが、実際は本家阿佐ヶ谷スパイダース舞台も3年前に観ていた。「はたらくおとこ」再演は本多の後部席だったのだろう、舞台風景を殆ど覚えておらず「りんご」の話を交わす微かな記憶のみ。
今回の吉祥寺シアターでは客席を含め、舞台の建て付けがイイ感じ。不安定感とまとまりの絶妙なバランス。開閉式の床の穴が複数あり、物の出と人の消えがある。舞台最前には川に見立てられる長方形の穴がボッカリと開き、物を捨てたり人が飛び込んだり端から端へ抜ける道だったり。手前左右奥、舞台奥の下手上手袖にもハケるし、さらにに奥は溶暗している。
このどん詰まりの壁が、殆ど数秒の事だが開くと鮮やかな夜の街明かりが射し込み、人、そして車が通るのが目に入る。つまり劇場裏手の搬入口らしいと後で推察するが、仕込みであるのかどうか。いずれにせよ芝居の文脈とは無関係に突然、あたかも自然な流れのように挿入される。(つい先日KAATで観た庭劇団ペニノ「笑顔の砦」の終幕の暗転で、舞台が中央で割れ始め、逆光に映える一瞬の現象を目にするが、これと同程度に意図不明、かつ美しい数秒であった。)
ピアニカや鳴り物で構成される楽隊も、役者がやる。上演中は「やれる人」の集まりだろうと思っていたが、その位劇伴として完成度が高く、台詞の出しは(当然ながら)バッチリ。見れば何と我らが荻野清子。今回は彼女の劇音楽キャリアのきっかけとなった黒テントの方式(彼女が理想的と考えていた)を実行したのだとか。
阿佐ヶ谷スパイダースが大所帯の劇団として再出発した事を私は知らなかったが、その評価はともかく(今後の事になるだろう)贔屓女優・村岡希美氏の秀逸演技も拝め気持ち良く劇場を出た。