紅の舞う丘 公演情報 風琴工房「紅の舞う丘」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    涙が止まりませんでした
     大企業のキャリアウーマンだった30代の咲子(松岡洋子)は一念発起して退職し、化粧品会社を起業します。研究者と営業、総務など最低限の社員とともに、自分にとって最高の化粧品を作り、それを日本人女性に届けようと奮闘する波乱万丈の数年間。詩森さんが実在する無添加化粧品の会社や女性企業家の方々を取材し、その内容をまとめて創作されました(特定のモデルがあるわけではないですが、ほぼ全てが取材内容に基づいているそうです)。


     「本当に良いものを作りたい」「嘘をつかずに、お客様に届けたい」という純粋な気持ちが舞台に溢れているのを感じ、開幕から約30分ぐらいの間、涙が溢れて止まりませんでした。ねつ造や虚偽などの報道がほぼ毎日のように目に、耳に入ってくる今の日本で、人間の根源にある善意(と言っていいと思うのですが)を見せていただけたように思います。


     作品全体のクオリティーがものすごく高いとは言えないかもしれません。役者さんの中には明らかに演技がおぼつかない方や、ちょっとおおげさに動く方などもいらっしゃいました。脚本もまだ精度を上げられる気がします。でもそんなデコボコもさえも、あるベンチャー企業の黎明期を生き生きと体現しているように思えました。不器用だけれど本気で、何をやるにもひたむきな彼らに、私は一緒に生きていく勇気をもらいました。

    ネタバレBOX

     ザ・スズナリの舞台が大きく露出したシンプルなステージ。何もない古いビルがレトロな家具で徐々に埋まっていって、オフィスになります。登場人物がその場で家具を移動させて場面転換するのが、同じ志を持った人間の共同作業に見えて、転換中にも涙が溢れたりしました。


     仕事のために結婚も出産も延期する女性(咲子:松岡洋子)、子育てが終わって仕事に復帰する女性(真知子:大崎由利子)、結婚を機に仕事を辞める女性(百岩:江口敦子)、結婚して子供を育てながら仕事も続ける女性(千原:宮嶋美子)・・・。結婚・出産は資本主義社会を生きる日本人女性の誰もが悩み、いつか必ず選択を迫られることです。求められる女性像を提示するとか、あれが間違ってる、これが正しいなどと主張するのではなく、現代を生きるあらゆる女性を暖かく、いとおしく見つめるまなざしを感じました。それが女性の唇を彩る鮮やかな紅(べに)として表れていたと思います。


     咲子らが立ち上げたサフラワー化粧品は数々の困難を乗り越え、終幕時に創立5年目を迎えます。できれば1本でも商品が売れるシーンがあって欲しかったですね。実際に化粧品を買って使う女性の姿が見えてこなかったのは残念。
     春は鳥のさえずり、夏は蝉の声など、お約束の効果音が会話の間に鳴って、集中が途切れることがありました。でも音楽の選曲は優しくエレガントで私好みでした。


     登場人物の一人一人がとても個性的で、わかりやすい特徴を持っていました。押しかけ総務・経理の沼河内(山ノ井史)、同じく押しかけ販売員の山本都里夢(ドリーム:笹野鈴々音)などは特に強烈です(笑)。苦手な方もいるかもしれませんが、私にはたまらなくいとおしい存在でした。


     私が拝見した回のゲストは好宮温太郎さん(タテヨコ企画)。エッチでいやらしい感じの化粧品会社社長を悠々と演じてらっしゃいました。ゲストに男性も女性も両方キャスティングされているのは、こういうことだったんですね。確かにあの役はどちらでも大丈夫ですね。

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    2007/04/06 16:38

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