満足度★★★★
時に、なぜか寿命の長い不思議な芝居がある。またかの勧進帳、と言う事だが、勧進帳のようにすぐれた作品でなくとも、観客に馴染む不思議な作品があるのだ。
ロンドンで七年前に初演以来、ウエストエンドで再演も果たし、以来、世界巡演し、今回のロンドン仕立てのツアーは帰国後またロンドンでやるというヒット・ミュージカルだ。
二十五年前のヒット映画(同名)の中の舞台のヒット音楽をいただいているところも珍しい。
最近の流行で、ストーリーと音楽、をもらってきて、あとはミュージカルとして形を作る、と言う事で、「ジュークボックスミュージカル」と言うと解説されている。「ジャージー・ボーイズ」や「Beautiful」とか、例があると言うが、これらは音楽に直接かかわった人たちを素材にしている。この作品はボックスの曲数をもっと広げたと言う事か。
海外からのツアー公演は、気軽に海外まで出かれられない観客にとってはありがたいもので、当たり外れはあるが、おおむねロンドン仕立ては余り、外れがない。
今回のツアーも、ロンドン版の出演者はほとんどいないが、主演の姉妹二人は歌はうまいし、見栄えはするし、舞台での押し出しも大したもので、さすが本場は層が厚い。
しかし、ウエストエンドでも、これだけ他力本願のミュージカルしかヒット作品がないのだろうか。まず、物語だが、元映画の筋だけとっていて、舞台のドラマになっていない。僅かに姉妹の葛藤があるが、それはつけたりの脇筋で、肝心のロマンチック・スリラーとしての枷がユルユルで、緊迫感がないからロマンスの方も盛り上がらない。男役の主役に、カラオケで歌う以外に曲がない、というのも異例だろう。これは本人の責任ではないが、フランス版の主役のフランス人の俳優で、アメリカの話なのに、アメリカ人らしさがない二枚目である。ついでに言えば、生活感を出すつもりの母子家庭のこともの設定も、イラク帰りのストーカーの設定も安易でつまらない。
ダンスナンバーも、一つくらいはオオッツと見せるナンバーがあるものだが、今回おおむねおとなしく納まりがいい。これはラブソング中心の音楽のせいだろうが。
格別のことはない来日公演なのだが、結構客が来ているのは、安心して馴染めるからなのだろう。「レ・ミゼ」や「ミスサイゴン」を作るのは容易ではないことは客も先刻ご承知である。その合間にジュークボックス・ミュージカルとはよく言ったものである。しかし、この素材でももう少し、天下のウエストエンドなら工夫があってもしかるべき、とない物ねだりだしたくなる。流石、ロンドンでもこの作品初演時にオリヴィエ賞に幾部門かはノミネートされたようだが全く受賞はしていない。やっぱり不思議な当たりなのだろう。