わたしは… 公演情報 ソラミミ「わたしは…」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    チラシには、「3人の出会いと回復のお話」とあるが、自分は説明文の「少女は人生の荒野を目指す。」から、五木寛之の小説「青年は荒野をめざす」を連想した。もっともそのスケールと世界観は異なる。しかし何となく”自立”という人間の成長過程を描いているようで興味深かった。そして自立は各人のことを示す。また小説ではジャズ音楽であったが、本公演は劇中音楽として生演奏という手法で見聞きさせる。
    物語は父親と思春期の娘を通して、立場や経験その思いが空回りし上手く相手に伝えらない。そんな苛立ちもどかしさ、逆に押し付けに感じる意識の違いが、素直に描かれる。
    この作品はソラミミの旗揚げ公演、そして第31回池袋演劇祭参加作品である。その意味で人生の荒野ならぬ劇団の挑戦のようでもあるが…。
    (上演時間50分)

    ネタバレBOX

    セットは演技スペースにキューブが3つ。中央奥に1つと客席寄りの上手・下手側に各1つ置き動かすことはしない。ほぼ素舞台、役者の演技力で情景と情況を紡ぎ出す。演技スペースの奥に一段高くしたところに楽器が置かれている。

    登場人物は3人。そのバックボーン的なことは説明文にある。補足すれば、少女は中学1年生で体操クラブに通わされている。父親はPTA会長等、娘に関わる組織の要職にある。この2人は父子家庭で母親はいない。ホームレスにはかつて家族がおり娘も...。
    この3者が絡んだ物語であるが、個々人の悩みや強要(教養ではない)行為は表層的で演技を眺めている感覚だ。といって演技力が劣っている訳ではなく、何となくニュース等で見聞きした事を人物に語らせて繋いでいるようで新鮮味がない。味わいがあるとすれば、ホームレスとの絡みであるが、中学1年生の少女がホームレスに喋りかけるか?その意識下に蔑み見下し、興味本位はなかったのだろうか?という疑問もある。

    演技はキューブを立ち位置とし、それぞれが行き来したり歩き回っている。その空間がご近所であり公園を思わせる。少女という設定が、行動範囲を限定させ空間的広がりが感じさせられないところが残念だ。また家庭内という2人空間が出現しきれていないとも思う。1人ひとりに背負わせた悩み・問題は、親という名の怪物プレッシャー、世間という名の無情・非情プレッシャーのようだ。その問題の提示は身近で興味深く、それを表層的ではなく十分に際立たせた展開に出来れば良かった。

    演出は、もちろん生演奏の効果であろう。音響機材を用いてもよいが、いくつかの理由で好感をもった。第1に直に音楽が聴ける魅力、第2に素舞台というそっけなさをカバーする空間作り、第3に人の温もりが伝わることなどが挙げられる。公演は物語やこれらの要素をもって成り立つであろうが、自分は物語中心に感想を書かせていただく。
    ちなみに「青年は荒野をめざす」では、父宛ての手紙で大学へ進まなかったことを後悔せず、人間の生活の中で学問をしたことを綴っている。劇団としても、今後色々な挑戦をし続けて飛躍してほしい、と思う。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2019/09/16 10:12

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