満足度★★★★
地人会新社プロデュース公演二度目の観劇(前身の地人会は未見)。前回『豚小屋』は舞台こそ我が居処とばかり緩急自在であった北村有起哉と、田畑智子の濃密な二人芝居であったが、今作は三人、とは言え実質二人の対話劇×二組といった構成。長台詞も多い。そうだイングマル・ベルイマン作だった、と後で思い出した。劇は稽古後の演出家と女優、そしてかつての女優であるその母との対話。対話のテンポ感を見せる場面もなくはないが、俳優それぞれが単体でどのように存在しているかに目が行く。鋭く見入る観客の前で俳優は体まるごと舞台上に晒されるシビアな「現場」の趣きであった。初日、榎木孝明(初見)は貫禄を見せ、台詞の噛みがあっても余裕の風情だったが、机に座って台本をめくる所がカンペーに見えたのは残念(実際そうだったかも)。若い女優アンナは初々しさを出すなら正解だったが、役は母親失格な女優を母に持ち幼少より老成したかのような屈折を底辺に持っている今日この時、他に自分の居所を見出せない女優という職業への思いも同様に屈折しているはずで、今回の森川由樹にこの役はハードルが高かった。驚嘆は一路真輝の母親。演出家の言わば想念として登場するが、舞台奥から歩いてくるのが視界に入った時から空気がガラリと変わっている。私は何と貴重な存在を知らず見過ごしていたか、と後で名を確認して初見である事を恥じ、否、悔いた程。寸分の隙もなく連続性があり赤裸々に役の存在そのものを体現するのを凝視した。パンフには殆ど初めての挑戦、と書かれていたが、女優ここに有り、幸運な遭遇であった。