「Tip」 公演情報 円盤ライダー「「Tip」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    久々3年振り、2度目の円盤ライダー。前回と同じ作・演出村井雄、会場山野美容学院。所謂「劇場」での公演を原則やらない演劇企画体(と呼んでみる)であるが、今回は石坂勇氏プロデュースとある。何だろう・・?この正体知れなさには踏み込むにもエイヤと気合が要る。このたびは休暇をとり、心にゆとりを確保しつつ会場へ赴いた。
    客席の大部分が女性なのは前に同じであるが此度は男性の姿も散見し、場違い感なく落着いて観劇できたのはよかった。バーカウンターのある側をステージに、二方向二列の座り心地良い椅子が並ぶ。高い天井まで張られた巨大なガラス面は南北とも縦のブラインドカーテンが引かれ、自然光の間接照明。プラス、天井の照明と、シャンデリアも灯っている。
    無言の身体から芝居は始まる。黒スーツ姿の男7人による驚きの舞台であった。・・何に対して?正統に演劇であり劇的である事に対して(殆ど何も言ってないが)。
    予期せず胸に溢れた感興を、今は語らず反芻していたい気分である。

    ネタバレBOX

    私の円盤ライダー瞥見二度とも村井雄氏の作であるので、開幕ペナントレース的世界と円盤ライダー的個性の説明などできないが、全員黒スーツのキメは開幕Pスタイルである所のユニフォームと解釈できようか。体育会ノリに馬鹿をやらかす男共を、熱い眼差しで遠巻きに見る女性たち・・という構図を純粋に体現しているのはこの舞台。馬鹿発散のためのツールであり楽譜である所の「劇」、これに「ダンス」なる飛び道具を加え発散ボルテージは倍加。要した習練量は想像できないが、その道の人である石坂氏と並んで皆一体と化した。
    村井氏のテキストは要所で杭を打ち、他はアドリブ混じりの緩い駄弁の時間、ところが終りの方の杭を打ったと思うや綱を引きにかかり、ピンと張られた綱は一気に形をなした。そうなると後は余裕綽々、もう一二本杭を打ち、余った綱を渡すのみ。そのかん場内は激しい音楽の中、馬鹿で無垢で一つな男らの狂い踊りが撒き散らす蒸気が満ちる。かつて踊りに生き、どう見積もっても先の短い人生に絶望し、全てが無意味に思えている男(Tip)が、「現在」通うバーの男達を通して自分の父や若い頃働いたトラック野郎たちと出会い直す物語。そして男らは一様に馬鹿な(=何の利得も無い)エールをTipに投げ、高い天井の場内に谺する。振り向けば新宿の空。27階の窓から男がジャンプしたとしても彼らは男を祝福しその人生を讃えただろう。願望の種を育てたような幻想譚が、身体一つで強烈に立ち上がる演劇のミラクル。

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    2019/08/29 01:37

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