この取り上げ方に作家の優しさが見えると同時に社会的問題として見ようとする視座が見える。もう一段踏み込む為には、自分の大切な人の実際に抱えている問題として捉えなおす視座も必要となろう。そうすれば、世間が他人事としてしか見ないことへの批判的視座も持ち得るように思う。無論、更に多くのことについて悩まなければならないし、頗るシンドイ作業であるが、作家はできればそこまでコミットしたいものである。こんなことを書くのは無論この作家は視座の持ちようでそれも可能だと信じるが故である。 By the way,現在この「国」で横行する陰惨極まる苛めに関わる多くの者達が、実は自らも何らかの問題を抱えているということを描いていることは評価しておく必要があろう。自分はかつて地域の住民運動に関わっていたので様々な問題に関与した。不良少年・少女問題での暴力、カツアゲから売り、堕胎、薬中、苛めや引きこもり、登校拒否、親子関係、DV等々、校内で苛めが問題視されないこと、差別等。現代日本が抱える問題の何から何までがあった。そのような問題の中でも苛めは、苛める側もそうしなければ自らが苛めの対象となるなどの恐怖を抱え、親たちが、自分の子を庇うことなどがあるばかりでなく更に悲惨なケースでは、家庭内暴力に親が為す術もないケースさえある。現在では発達したネットによってSNSなどで誹謗中傷が拡散され、事実無根の情報だけが拡散して被害者を追い込むケースが増えたから猶更である。 こんな状況を抱え、噂や故知らぬ悪意中傷に囲まれ乍ら我々一人一人は生きており、生きてゆかねばならない。その為に人々が考えることは強くなることだが、その為には不断にエンカレッジし続けなければならない。更に普遍的な場所に自ら行き着く為に人々より考え続けなければならない。その勇気を与えてくれる作品だ。