神の子どもたちはみな踊る after the quake 公演情報 ホリプロ「神の子どもたちはみな踊る after the quake」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    村上春樹の小説の舞台化は難しい。長編は筋を追うので精一杯だし(何より「海辺のカフカ」はそれで失敗した)、短編はスマートな文章が魅力で、孤独の雰囲気はつくるが核となるドラマ、対立が乏しい。本作も同様の困難を抱えているが、焦点を絞ったことと、短編二つを組み合わせて立体的にしたことで、比較的成功した。連作集『神の子どもたちはみな踊る』から「かえるくん、東京を救う」と「蜂蜜パイ」を原作に舞台化した。

    「蜂蜜パイ」パートと「かえるくん」パートが交互に進む。「かえるくん」役の木場勝己が「蜂蜜」パートでは語り手になり、「蜂蜜」の作家である淳平が「かえるくん」の小説を書いているという、相互に浸透しあう構図がうまい。

    かえるくんは「カフカ」の猫のように着ぐるみでやるのかと思ったら、カエル頭の帽子をかぶるだけで、キャラ化は抑え気味だった。おかげでベテラン木場の持ち味を生かせたと思う。

    ネタバレBOX

    何度か読んだことのあるものなので、筋やせりふは小説そのままで、舞台で小説を見る感じであった。かえるくんがミミズとの戦いの後、溶けて崩れて破裂するシーンは、照明を使って感じを出していた。あまり大仕掛けはなく、奇をてらわない正攻法だった。

    見ながら感じたのは、「蜂蜜パイ」の話が、男二人の間で、女性を譲ったり、取り戻したりの夏目漱石得意の「ホモソーシャル」な関係を描くものだったということ。淳平が語る二頭の熊のお話は、仲良くなる場面で、淳平はやけに寂しそうで、淳平と高槻のことのように聞こえた。

    淳平は高槻に小夜子を譲ったがために、自分の中の何かを決定的に損なってしまったようにみえた。村上春樹が繰り返し描く「喪失」である。淳平は、最後、失われた自己を回復し、小夜子・沙羅の母子を守ろうと男らしく決意する。小説ではそこに熊のトン吉が熊のマサ吉と再び仲直りする話があるが、舞台では省略されていた(と記憶する)。かえるくんの、とりあえずの勝利もあるから、くどくなるのを避けたのだろう。が、非常に大事なラストなので、これを本当に省略したのかどうか、自信がなくなってきた。

    来年2月には「ねじまき鳥クロニクル」の舞台もあるそうだ。ホリプロ製作、東京芸術劇場プレイハウス。今度は大長編。作・演出はアミール・クリガーと藤田貴大。これもまた舞台化が成功するとは思えないが、藤田は抽象的な舞台を作る人なので、この大長編のストーリーにあまり付き合わなければ、それがうまくいくかもしれない。

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    2019/08/13 13:29

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