満足度★★★★
難しい企画だが、大成功だ。ケラの代表作。ケラ的ナンセンスを詰め込んだ戯曲が本人以外の演出で舞台になった。 しかも、商業演劇で!!
戯曲の大筋、SF風殺人ゲームの七年のクロニクル三幕は、初演とほとんど変わっていない。地中海の島のリゾートを開発中の経営者の豪邸に、日本人の女の子二人が、殺人プランを持って訪れる、といういかにもバブル時代、1987年の空気横溢の設定で、そこから二幕は95年、三幕は03年(書かれた時点では未来)。物語は破滅に向かって一直線なのだが、そこはナンセンスでグロテスクな笑いてんこ盛りの、それまでの日本演劇になかった異色の世界である。喜劇、とか笑劇とか、ミステリ劇とか、ジャンル分けなんか、吹き飛ばすような快作である。
しかし、この芝居は、ケラとナイロンでなければできないと思っていた。その後試みられた別のカンパニーの出来がその証とも思っていた。
だが、今回は違う。ケラ自身が再演を認めたカンパニーでやる、ケラ・クロスと言う企画の第一弾といいながら、まったく座組みが違う。戯曲へはリスペクトだけでいい、と作者に言われても、この破天荒な本に立ち向かう演出と役者は、さぞ緊張したことだろう。
演出の鈴木裕美はケラより少し後に出た小劇場出身。理屈の立つ女流演出家が多い中で、どちらかと言えば実践肉体派。ケラの演出が、男目線であったのに対し、鈴木演出は、徹底的に女目線。登場する人物(女性ばかり)に、容赦がない。ケラ演出よりも、ドライな乾き方で、このドラマが一層魅力を増した。
俳優もそれぞれ適役が揃った。キャスティングもうまい。鈴木杏にブルゾンちえみを組ませる、という秀逸なアイディア。代役出たとは思えない花乃まりあのハマり方。シルビアグラフの安定感。いずれも、演出の現場リアリズムとでもいうしかないスタイルで統一されて見事に新しいフローズンビーチになった。
さらに、この異色の顔ぶれの企画を東宝のメインの劇場で開けるところまで持って行った影のプロデューサーに拍手。ご苦労さま、お蔭で新しい商業演劇の道が一つ開いた。