満足度★★★★★
2019.8.2㈮ 3㈯ 4㈰ 上野御徒町 古民家ギャラリーしあん
今年最高の37℃を記録した金曜日から、猛暑続きの3日間、大江戸線の新御徒町から歩いて程近い古民家ギャラリーしあんに、劇団月とスカレッタ 試演会シリーズ①『夏の朗読会/怖い話』を聴きに足を運んだ。
今年3月末に解散した演劇集団アクト青山の主宰小西優司さんが、新しく立ち上げた劇団月とスカレッタの本公演に向けて、いくつか試演会として公演があり、その最初がこの『夏の朗読会/怖い話』。
演劇集団アクト青山時代から好きな役者さんが出演され、春夏の朗読会も好きで聴きに行っていたので、2日の夜の回、3日と4日の昼の回の予約をしていた矢先、主宰の小西優司さんから、劇団名に因んだ『月』をイメージしたコラボレーションのハンドメイドの依頼があり、物販担当の岩崎友香さんと打合せ、アクセサリーとブックマークを製作させて頂くという形で、少しだけ関わらせて頂いた夏の朗読会は、私にとっても忘れられない公演になった。
3日間聴きに行ったので、今回は、全体を通して感じた感想をつづらせて頂く。
2年前まで派遣の仕事で、通っていた会社の近くに、こんな静かなギャラリーがあったのを知らなかった。紺地に白でお店の名前を染め抜かれた暖簾を潜り、木戸を開けて歩いた数歩先にある古民家の引戸をあけ、上がり框を上がり、木戸銭を払い部屋に入り、前から二列目左隅の席に着き、目を上げると正面に緑濃い葉をさやさやと風にそよがせる庭木のある小体な庭が、硝子戸の向こうに見える。
庭に続く硝子戸と磨きこまれた板の間の間にある縁側のようになった場所に置かれた、昭和初期の佇まいのアンティークな長椅子とテーブルが置かれており、その長椅子に座り役者さんたちが朗読する。
偕成社の『日本のこわい話 民話と伝説 呪いの巻物』の中から選ばれ読まれた話は、怖いと言うよりも、温かさやそこはかとない悲しみ、切なさ、可笑しみに重心が置かれているように感じた。
おどろおどろしい怖い話と言うより、そうなる理由や、母の愛や、人の身勝手さ故に起きた事であったり、切なさや悲しみ、それだけでなく、滑稽な話もあったり、日本古来の伝説や民話の中に出て来る怖い話は、子供たちへの教訓を分かりやすく伝える役目もあった。
怖い話にしても、こういう事をするのはいけない、こういう事をするとバチが当たるというのを分かりやすくヒシヒシと身にします様に教える役割も担っているので、怖いだけではなく、そこには情や温かさがあるのだと言うことが、この偕成社の本の中にある怖い話を朗読によって聴くことでより強く、皮膚感覚を伴って伝わって来た。
劇団月とスカレッタの役者さんは、声、発声発語がハッキリしていて、とても聴き取りやすく、情景を声で描き出されるので、すうーっと話の中に彷徨い混む事が出来る。
それは、ゲストの飯田南織さん、牛抱せん夏さん、三浦剛さんにも感じたこと。
小西優司さんの読んだ、身篭ったまま亡くなり、棺の中で産み落とされた我が子を飢えさせぬ為、毎夜飴屋に飴を買いに行き、その飴を我が子に舐めさせる『子育てゆうれい』は、死してなお、母の愛を感じて聞く度にしみしみと切なくなった。
岩崎友香さんの『うばすて山の夜なき石』の、年老いた母が自ら、息子の負担になってはいけないとうばすて山に行くと言い、山に着き、見上げた空の深々と凍える空気と年老いた母の目に映る景色、胸に去来する思い、息子の辛さが、悲しくも美しい一幅の絵のように瞼の裏に映った。
葵ミサさんの『墓をあばく老婆』は、静けさの中に緊迫感を感じ、幼い頃母に読んでもらった、山姥に追いかけられ、命からがらでお寺に駆け戻って九死に一生を得た、小僧さんの話を思い出し、怖いのに懐かしいような、幼い日の手に汗握って聞いていた夏の日を思い出した。
実話怪談師の牛抱(うしだき)せん夏さんの朗読とその後にされた、実話怪談は、話されている間後ろの庭の木の枝が風にざわざわと揺れていて、臨場感たっぷりで、怖かった。
相楽信頼さんの『うらみの白骨』は、眠狂四郎がスパッと抜刀して斬ったような、冴え冴えとした静けさの中に、冷やっとするこわさがあった。
キャラメルボックスの三浦剛さんの『大入道と小僧』は、別の意味で怖くはあるけれど、唯一、ほのぼのと可笑しみのある話で、三浦剛さんの語り口と相俟って、唯一ほっこりとした。
ベニバラ兎団の飯田南織さんの『鬼につかれた妹』は、鬼が妹を食い殺して妹になりすまし、村中の人を食べ尽くし、残ったのは息子の言うことを信じず、息子を家から追い出した両親のみで、兄が鬼を退治する話だが、登場人物が、一人一人を声で描き出し、目の前にありありと見えるようだった。
朗読会とはなっているものの、朗読を越えて、一人芝居を見ているような、1日3本の短編芝居を観ている様な素晴らしい『夏の朗読会/怖い話』だった。
文:麻美 雪